ピッチング理論

2010/06/10 西武vs阪神 4回戦

3:25
阪神 10
埼玉西武 10

埼玉西武vs阪神4回戦(西武ドーム:28,892人)
埼玉西武ライオンズ 3勝1敗0分

継投:●石井一久~許銘傑~武隈祥太~田中靖洋~松永浩典~大沼幸二
敗戦投手:石井一久 6勝4敗 4.12

ホームラン:高山久(4号2ラン)
盗塁:片岡易之(27)

【ハイライト】


【ゲームレビュー】
今夜は敗戦の原因を長々と書くのはよそうと思う。敗因は明白だ。失点に繋がるエラーが3つも出ては、野球では当然勝つことはできない。ということでそんな分かり切ったことを書くのではなく、今夜は中島裕之選手と藤川球児投手の対決にクローズアップして書き進めていこうと思う。

試合終了後、筆者はこの対決を3回連続で録画再生してしまった。それほどまでに素晴らしい対決だったと思う。まず初球はカーブだったのだろうか、このボールが外れて1ボール。だがこの後が圧巻だった。3球続けてストレートを投げ込み、中島選手もその全力投球に応えるかのように3回フルスウィングを続けた。これぞプロ野球、力と力のぶつかり合い、見応えある対決だった。

この一打席は、初球のカーブで戦局が決まっていた。決して悪くないカーブだったのだが、中島選手は完璧にタイミングを合わせ、自信を持ってボールを見逃した。とは言えコースが若干甘かったため打ちには行ったのだが、ボールをしっかり見極められていたこともあり、バットを簡単に止めることができた。バッテリーの頭の中からはこの1球のカーブにより、変化球という選択肢は消えた。この初球がカーブではなく、フォークだったとしても結果は変わらなかっただろう。

2球目、城島捕手が構えたミットは外角低めだった。だが藤川投手が投じたボールは内角高め。中島選手はこのインハイを苦手としているのだが、狙っていたストレートということもあり、迷わずフルスウィングしてきた。タイミングは合っていたと思う。

3球目も城島捕手はやはり低めに待ち構えていた。だが2球目ほどではないものの、ボールは高めに浮いた。並の投手のボールであれば、中島選手にとってはホームランボールとも言えるほどのコースだった。だが無情にもボールは、中島選手のバットの遥か上を通過していった。

そして迎えた4球目。筆者は感動してしまった。中島選手は普段、追い込まれたりどうしてもヒットが欲しい場面になると、バットを一握り余して構えている。だがこの打席では1-2と追い込まれたにも関わらず、バットは長く握ったままだった。これは全力投球の藤川投手に対し、中島選手もそれに応えフルスウィングをするという一種のスポーツマンシップだったと筆者は感じた。中島選手が2ストライク後にバットを短く持つことは、阪神バッテリーも十分承知していたはずだ。この中島選手の心意気に、藤川投手も応えた。選んだ球種はもちろんストレートだった。

中島選手のフルスウィングは、藤川投手のストレートにしっかりと合っていた。だが藤川投手のストレートはそれ以上だった。中島選手のバットを見下ろしながらホームプレートを通過し、城島捕手のミットに納まった。まるでファイアーボールのような弾丸ストレートだった。西武ドームのスピードガンは12球団の球場の中でも最もスピードが出ないため、もし他の球場であれば、中島選手に投じたストレートはすべて150km以上を計測していただろう。

結果は初球のカーブを見逃した後、ストレートを3つ空振っての三振だった。西武ファンとしては敗戦は悔しい限りだが、しかし藤川投手のストレートは敵ながら天晴れだ。セ・リーグの投手のことを書く機会はこのブログではほとんどないため、今夜は少しだけ藤川投手のストレートの謎について、筆者なりの見解を述べてみようとも思う。

藤川球児投手のストレートに関しては、世間では色々なことが言われている。ボールの回転数が凄まじく多いというのが一般論なのだが、なぜそこまでボールの回転数が増えるのか、と解説されることは少ないように感じる。もちろんパ・リーグにしかほとんど興味を持たない筆者のアンテナが、そちらに向いていないせいもあるのだが。

筆者が藤川投手を見て一番強く感じるのは、肩関節の柔らかさだ。人間は、気をつけの姿勢から腕を前へ上げることはいくらでもできる。だが後方に上げるとなるとほとんど上がらない。しかもピッチャーの場合は、肩関節を内旋させながらテイクバックを取るため、余計上がりづらい。

普通のピッチャーであれば、いや、普通じゃなくても松坂大輔投手のようなレベルにあるピッチャーであっても、肩関節を内旋させながらテイクバックをし、前腕が下を向いた状態で上腕が肩のラインに達すると内旋は解除される。そしてここからコッキングと言って、内旋から外旋に切り替わり、下向きに直角になっていた前腕がどんどん上に上がり、トップの位置を作っていく。これが一般的なピッチャーの動きだ。だが藤川投手は違う。コッキングの段階になっても、まだ内旋した状態で前腕が上に上がり、その途中になってやっと内旋が外旋に切り替わっている。この僅かな切り替わりのタイミングの差が、藤川投手の凄まじい回転数を誇るストレートを生み出している。

「切れ」という言葉は野球ファンであれば誰もが聞いたことがあると思う。だが「切れ」を説明できる方は決して多くはないだろう。切れとは簡単に説明をすると、同じ距離だけ動く腕の動作を、どれだけ短い時間で行えるかということだ。

例えば身体が開いてしまっている投手の場合、ボールを持っている方の腕は身体の開きに合わせて、投球動作の早い時点からスウィングを開始してしまう。だが身体が開かず、しっかりと前肩を入れられている投手の場合、振り上げた前脚が地面に着地してもなおボールを持った腕はトップの位置を保ち、二塁ベース側に残っている。この腕は、前脚が着地してからやっとスウィングを始めていく。となると、スウィングさせられる残り時間はもう僅かだ。リニア・ムーヴメント(体重移動)に合わせるには、腕を物凄いスピードで振っていかなければ身体の動きは連動しなくなる。連動しなければ下半身で生まれたエネルギーは上半身には伝わらず、ボールは棒球となってスタンドに運ばれてしまう。切れというのはこのスローイングアームのように、ある一定距離間を動くための時間を、どれだけ遅く始動させ、どれだけ短い時間で行えるかということなのだ。始動が遅くなり、移動時間が短くなるほど、切れがあると言うことができる。

上記の説明をかんたんに理解していただいた上で、再び藤川投手に戻りたいと思う。藤川投手のテイクバックからコッキングの動きの中では、肩関節が内旋から外旋に切り替わるタイミングが遅いとはすでに述べた。これは肩関節が並外れて柔らかく、しかも強くなければできないことであり、これを普通のピッチャーが真似しようとすれば間違いなく肩を痛めるだろう。

内旋から外旋に切り替わるタイミングが遅いとは言え、藤川投手も他の投手同様に、同じ分だけ肩関節を外旋させていかなければならない。つまり、リリースの瞬間に指先がキャッチャーミットに正対するまでは、肩は外旋方向にある。外旋の始動ポイントが遅れるということは、リリースで指先が正対するまでに、それだけ短時間かつスピーディーに外旋状態を解除し、リリース以降の内旋に繋げていかなければならない。

藤川投手は腕全体のスウィングに切れがあるだけではなく、スウィング中の腕の動きを分解した外旋動作にも切れがあるというわけなのだ。ここまで外旋動作に切れのあるピッチャーは、世界中のピッチャーを探してもそうそういないだろう。少なくとも筆者が知る限り、NPBには藤川投手しか存在しないと思う。そして他の投手に比べプラスアルファになるこの外旋動作の切れこそが、藤川投手のストレートに凄まじい回転数を与えているのだ。これが筆者なりの藤川投手に対する見解だ。

残念ながらこのブログはあくまでも埼玉西武ライオンズを主体としたブログであるため、これ以上藤川投手のことを書くのは控えておこうと思う。筆者自身藤川投手のことは尊敬しているが、しかし西武ファンとしては中島選手の三振は悔しかったのである。今後もし藤川投手を打ち崩すための策を練るとすれば、筆者ならバッターには大根切りに近いダウンスウィングをさせるだろう。そうすれば少なくとも、ボールがバットの上を通過する回数は減り、ミートできる確率は上がるはずだ。藤川投手のストレートは速いとは言っても、並み居る速球派に比べると球速は出ていない。となるとバットをボールの上にさえ入れることができれば攻略は可能だと筆者は考えている。

来年の交流戦、もしくは今年のポストシーズンでは、中島選手にはぜひフルスウィングで藤川投手のストレートを打ち返して欲しいと思う。

2010年06月10日 22:38 



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