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涌井秀章投手・ダルビッシュ投手を真似するメリット・デメリット



親友同士である涌井秀章投手と、北海道日本ハムのダルビッシュ有投手は今や日本を代表するエースピッチャーへと成長を果たした。多くの野球教則本を読んでも、最近ではそのほとんどに涌井投手かダルビッシュ投手、もしくは両方が良き手本として登場している。確かに涌井投手もダルビッシュ投手も素晴らしい投手だ。それに関しては筆者は一切異論を持たない。だが多くの教則本には一つ警鐘を鳴らしたいと常々考えていた。

涌井投手とダルビッシュ投手の投球フォームだが、彼らの投げ方を子どもたちが100%そのまま真似てしまうのは実は良くはないのだ。いや、もちろんこれは筆者個人の意見でしかなく、それが正しいと教える指導者もいて、筆者の意見と食い違う方の指導を批判するつもりは一切ない。

まずダルビッシュ投手だが、身長が196cmある。この長身からあれだけ上体に力みのない、下半身主導の投げ方で快速球を投げ込まれれば、打者としては一溜まりもない。だが、だからと言ってダルビッシュ投手のフォームをそのまま真似ることは筆者はオススメはできない。その理由は体型にある。筆者の身長は175cmと、ダルビッシュ投手よりも20cm以上も低い。それなのに腕の長さと、手のサイズはほとんど同じで、手のサイズ・指の長さ・太さに関してはまるで同じなのだ。ダルビッシュ投手の手の長さについては、松坂大輔投手がそれに気付いたというエピソードがテレビなどで紹介されたことがあったらしいが、まさにその通りで、ダルビッシュ投手は身長の割には腕が短いのだ。

この腕の短さが可能にさせているのが、リーディングアーム(グラブをはめた左手)の使い方だ。ダルビッシュ投手はセットポジションからリーディングアームを打者側に突き出す際、かなり三塁線側に向けて突き出している。本来これは的(キャッチャーミット)に向けたり、ほんの少し三塁線側(左投手なら右腕を一塁線側)に向ける程度だ。だがダルビッシュ投手はかなり深い角度でこの腕を三塁線側に向けている。これは、ダルビッシュ投手の身長に対し腕が短いからこそ可能になるフォームなのだ。つまり身長と腕の長さのバランスにより、遠心力が小さく抑えられているのだ。もし成長著しい子どもたちがこれをそのまま真似てしまえば身体は遠心力に負けてしまい、本来スローイングアーム(ボールを握った側の腕)をリードするはずのリーディングアームが、リードの役割を果たせなくなってしまう。リーディングアームがスローイングアームをリードできなくなってしまうと、スローイングアームは自らの動きのみで投球動作を行わなければならなくなる。つまり投球側の肩にストレスが局所集中してしまい、肩痛を引き起こしてしまう可能性がある。だからこそ筆者は、ダルビッシュ投手の真似をする子どもたちに対しては、グラブをはめた腕の使い方だけを直してあげるようにしている。だがリーディングアームの使い方以外の面では、ダルビッシュ投手は子どもたちにとっては最高の手本となる。それは間違いない。

さて、続いては我らがエース涌井秀章投手だ。涌井投手の投げ方にも子どもたちに真似をしてもらいたくない点が一つある。それはノーワインドアップから左脚を振り上げた時の動作だ。涌井投手は左脚を最高部まで振り上げると、そこで一旦動きを止めたような動作をする。そしてかすかに左脚をクンクンを二段モーション気味に動かすことで、次の動作へと移っている。元楽天の野村克也監督はこれを二段モーションだとアピールしたことがあった。

ここで二段モーションの復習をしておこうと思う。二段モーションとは、国際ルールと日本ルールでは若干解釈が異なる。本来の国際ルールでの禁止二段モーションは、投球動作を途中で一度停止して、再度始動させることを禁じている。例えば横浜の三浦投手や楽天岩隈投手、さらには小野寺力投手のかつての二段モーションは、国際試合においては基本的にはボークにはならない。なぜならクンクンと振り上げた脚をわずかに動かすだけで、動作そのものは停止していないためだ。だがもちろん度を越してしまえば審判の判断でボークとはなるだろう。

一方日本国内での二段モーションは、投球動作中で同じ動作を繰り返すことを禁じている。かつての二段モーションのように一度振り上げた脚を僅かに下ろし、もう一度上げてから再度下ろしてステップしていくような動きだ。この途中で動作が一度停止していれば国際試合でもボークを宣告されるが、そうでない限り、日本の二段モーションルールは国際試合ではボークとはならない。これは一説によれば、国際試合のルールブックを翻訳した方の解釈、訳し方の問題で相違が生まれてしまったという。だが不思議なのは、間違いに気付いたにも関わらず、それを正そうとしない日本球界の姿勢だ。だがそれはさておくことにしよう。そしてそもそも二段モーションを取り入れる理由は、大袈裟にタメを作ろうとすると、そこで動作が止まってしまいがちになる。それを次の動作へとスムーズに繋げるための切っ掛けとして、二段モーションを取り入れていたわけだ。

話は涌井投手に戻るが、二段モーションを採用していた投手たちの目的は、軸足にタメを作り出すことだった。軸足に最大限のタメを作り出すことで、そこから生まれるエネルギーをボールに込めようと考えていたのだ。だが下半身の筋力がまだ成熟していない子どもたちが涌井投手のこの動作を真似てしまうと、クンクンしている内にどうしても動作が一度止まってしまうのだ。そして子どもたち自身も、涌井投手が一度動作を止めていると判断していることがある。しかし投球動作とは、一連の動きの流れの中で行うべきものだ。投球動作中に動作の停止が発生してしまうと、それまでに生み出したエネルギーがその停止によってほとんどが解消されてしまう。つまりボールを投げるためには、そこから再度エネルギーを生み出す必要がある。だがそこから再度エネルギーを生み出すと、やはり頼ってしまうのは肩・腕の筋力だ。筋力に頼ってボールを投げてしまうと、将来確実に肩・肘の故障を引き起こすだろう。

だがこの二段モーション気味の動きを省けば、ダルビッシュ投手同様に素晴らしいお手本となるのが涌井投手だ。プロ2年目当たりに涌井投手がフォームを変えた際には、筆者は少し疑問を感じたことがあった。その理由は、高校時代にあった躍動感をすべて消してしまっていたからだ。そしてボールをより打者の近くでリリースさせることで、腕のスウィングが真っ直ぐに出がちとなっていた。もちろんそうなるとシュート回転もしやすくなる。だが今やそんな心配は無用に終わってしまった。涌井投手の投球フォームは、年々少しずつ進化している。特に際立つのはボールの出所の見にくさだ。打者からすれば、涌井投手の身体の後ろ側に隠されていたボールが突然出現し飛んでくる、という印象を持つはずだ。しかも球持ちが長い分、リリースからホームプレートまでの到達時間が普通の投手よりも速い。つまり簡単に差し込まれてしまうわけだ。

以上の2点にさえ注意してもらえれば、涌井投手とダルビッシュ投手の真似はどんどんすべきだ。ちなみに今でこそ本格派として名を通す2人ではあるが、プロ入り後数年までは共に変化球投手だった。だが涌井投手は渡辺久信監督に、ダルビッシュ投手は現楽天の佐藤義則投手コーチに指導を受けたことで、変化球投手からいつの間にか本格派へと変貌を遂げていた。涌井投手に関してはプロ1年目までは本格派に近かったが、1年目で通用しなかったことですぐに技巧派へと変身を遂げてしまった。だが2人を技巧派から本格派へ成長させた渡辺監督と佐藤コーチの判断・指導は正解だったと思う。技は経験を積めばいくらでも磨くことができる。しかし本格派の投げるストレートは、若いうちにしか投げられない。ストレートの大切さを学ぶためにも、本格派になったことは将来のプラスにもなるはずだ。だからこそ筆者は子どもたちには、涌井投手とダルビッシュ投手を目指して練習に励んでもらいたい。野球チームのコーチがあれこれと教えるよりも、子どもたちにとっては涌井投手やダルビッシュ投手を見ることの方が、はるかに勉強になるからだ。これこそまさに一聞は一見にしかずで、コーチは子どもたちの明らかに悪い動きだけを調整してあげればそれでいい。

涌井投手とダルビッシュ投手の2人には今季、昨年は見られなかった子どもたちに大きな夢を与えてくれる直接対決を魅せてもらいたい。9回を終わって両投手とも無失点好投、延長に入っても両者譲らず。そんな2人の直接対決を、今季は渡辺監督と梨田監督には期待したいと思う。

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2011年01月31日 15:58