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中島裕之選手の残留を求めた後藤オーナーの英断



10月19日、埼玉西武ライオンズの後藤高志(西武鉄道会長)オーナーは、中島裕之選手のポスティングによるメジャー移籍に関し「希望があれば話は聞くが、来年は(ライオンズで)日本一を目指して欲しい」と語った。この発言により事実上中島選手の今オフのポスティングの可能性は消滅し、来季もライオンズに残留することになった。中島選手がメジャー移籍に関してどのような思いを抱いているのかは分からない。だが西武球団としてのこの判断は、正しかったと筆者は確信している。

後藤高志オーナーは、素晴らしい球団オーナーだと筆者は感じている。元々西武(コクド)がライオンズを買収した理由は、西武線沿線に大きなレジャー施設を設け、西武鉄道の利用者数を増やそうというものだった。また球団運営費の多くが親会社の広告費などでまかなわれていたことを考えると、西武グループの広告塔としての位置づけも大きかったのだろう。だが2004年に西武王国が崩壊し、堤オーナーが失脚すると2007年、後藤高志氏が正式にオーナー職に就いた。ライオンズが本格的に代わり始めたのは、まさにこの時からだった。

西武がライオンズを買収したのは1978年10月のことだった。蛇足ではあるが、筆者が生まれた4ヵ月後の出来事だ。この時ライオンズは博多から埼玉に移ることになるのだがその際、西武は福岡時代のあらゆるものを「西武ライオンズ」から引き剥がそうと躍起になった。それこそ西鉄ライオンズ時代の英雄でさえも遠ざけるほどだった。これには色々な理由が考えられるが、黒い霧事件と無縁だったということは考えにくい。以来、西鉄戦士たちはライオンズというチームからどんどん遠ざかっていってしまう。西鉄戦士たちのほとんどが西武ライオンズのコーチや監督にならなかったのもそのせいで、それらを豊田泰光氏が嘆いていたのも、非常に印象深い。

だが疎遠になった福岡時代のOBに再び手を差し伸べた人物がいた。それが後藤高志オーナーだ。後藤オーナーは就任翌2008年、早速ライオンズクラシックというイベントを催し、西鉄の野武士たちを西武ドームに勢揃いさせることに成功している。この時のエグゼクティヴプロデューサーは豊田泰光氏だったわけだが、2007年に逝去した故稲尾和久に向け「サイちゃん(稲尾和久のあだ名)にも見せたかった」と感慨深く語った姿が実に印象的だった。

恐らく後藤オーナーはライオンズを引き受けるに当たり、ライオンズの歴史を自ら追ったのだろう。そしてそこから、当時最強と謳われた西鉄ライオンズが急速に衰退した原因を学び、反面教師にしたのだと思う。西鉄が衰退した原因を簡単に述べると、1強くなった後そこに安寧してしまい、将来的な補強をやめてしまったこと。2西鉄母体の経営が危うくなり、球団運営費をまかなえなくなったこと。3黒い霧事件と呼ばれた八百長に、西鉄の選手数名が関係したこと。4球団運営費をまかなうため、主力をどんどん金銭トレードで放出してしまったこと。などが挙げられる。

1~4に関し、これらはすべて西鉄と西武に共通しうるものだと筆者は考える。まず1だが、森監督時代が最強を誇ってしまったことで将来的な補強が上手くいかず、西武は森監督勇退後の世代交代がスムーズに行かなかった。2は2004年に起ったインサイダー事件により、西武は上場廃止となった。西鉄の場合はエネルギー革命により、炭鉱周りでの収入を多く失い、さらには運輸省の指令で九州都市部のラッシュアワーの電車本数を増加させるも定期券利用客が多かった影響で投資に見合う利益が得られなかった。3に関しては西鉄や八百長事件、西武は裏金という問題を抱えた。4に関しては西鉄は豊田泰光選手ら多くの主力を金銭トレードで放出し、西武も松坂大輔投手をポスティングによりボストンに放出してしまった。これは移籍ではなく、放出と表現した方が正しいだろう。なぜなら、心身含めて松坂投手の後継者が未だ育っていないためだ。

世界経済の現状や、円高円安と言った事情も多分に含まれるだろうが、しかし後藤オーナーは4の悪しき慣習を繰り返すことをしなかった。筆者は報道を信じきり、中島選手は来季いないものだと諦めていた。だが後藤オーナーは金銭課題よりも、チームを強くすることを最優先に選んだ。銀行出身である後藤オーナーであればもっと金銭的にシビアになり、球団の運営経費を考えた上で中島選手を「販売」してもよかったと考えられる。だが後藤オーナーは決してそのようなことはしない。だからこそ筆者は後藤オーナーを、オーナー職就任以前より素晴らしいと感じているのだ。現在ライオンズが西武であるのも、オーナーが後藤高志氏であったからこそだ。

今季中島選手の年俸は推定2億5000万円とされている。今季のチームへの貢献度を考えれば、来季の年俸は3億前後が攻防ラインとなるだろう。中島選手1人だけでもチームとしては金銭的にかなりの負担になる。だが後藤オーナーはそれを承知の上で、中島選手のポスティングを認めず、チームへの残留を求めた。

プロ野球オーナーの理想の姿は、そのチームの最大のファンであることだ。つまり金は出すが口は出さないということに尽きる。どこかのチームのオーナーのようにタニマチ的感覚ではチームは決して強くならない。そして現場に口を挟むオーナーも見受けられるが、本来であれば現場はすべて監督に一任すべきだ。後藤オーナーのライオンズに対する接し方は、筆者は故三原脩はじめ、西鉄ライオンズ関連の書物から学んだとしか考えられない。故三原脩が著書にて何度も語っているプロ野球オーナーの理想像、後藤高志オーナーはまさにその姿なのだ。

これだけ素晴らしいオーナーが存在するライオンズだ。渡辺監督は来季、優勝することでオーナーの期待に応えなければならない。それでこそライオンズという歴史あるチームを率いる監督というものだ。そしてそのために伸ばすべき点、改善すべき点は山積みだ。渡辺監督には命賭けでライオンズというチームの歴史的再建を図ってもらいたい。ライオンズはホークス同様、プロ野球創生期から名を残す歴史ある球団なのだ。来季はその歴史に恥じぬ戦いを、宿敵ホークスと繰り広げてもらいたい。そして2008年以来3年振りの日本一を、オーナーに報告してもらいたい。

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2010年10月22日 01:59