#15 大石達也
#15 大石達也 - Tatsuya Ohishi投手、右投右打
2010年ドラフト1位
福岡大大濠高~早稲田大~埼玉西武ライオンズ
福岡県出身、1988年10月10日生、182cm / 76kg
球種:ストレートMAX155km、スライダー、カーブ、チェンジアップ、フォーク
大石達也投手の球威低下を招く投球動作の狂い
大石達也投手の先発転向は投手生命を長くする
ドラフト前夜、昨年1位大石達也投手の2011年
大石達也投手の肩痛は、決して悪いことではない
大石達也投手の剛球はなぜ鳴りを潜めているのか(2011/03/30)
大石達也投手のストレートはホップするのか?(2010/12/31)
大石達也投手最大の武器は、低目への速球(2010/12/10)
埼玉西武2010年ドラフト指名選手一覧(2010/10/28)
西武上位指名候補、斎藤・大石・榎田の評価(2010/10/23)
ドラフト会議前に書いた記事で、筆者は当初マスコミで予想されていた榎田投手ではなく、早大の大石投手か斎藤投手を獲りに行くべきだと主張した。昨年はドラフト前から雄星投手の指名を明言し、珍しく秘密主義のベールを脱いだ西武球団だったが、今年は完全に秘密主義を復活させた。筆者ももちろん、マスコミが西武が指名すると予測した選手を、西武球団は1人も獲りに行くことはなかった。そんな状況下、ドラフト会議が始まった直後に西武球団は早大の大石達也投手を指名した。6球団の競合だった。渡辺監督がクジを引き、見事2年連続当たりクジを引いた。
大石投手は今年のアマチュア・ナンバー1投手との呼び声が高い。それは事実なのだろうか?結論から言えば、事実だ。大石投手のピッチングは筆者も何度か見て来たが、本当に素晴らしい投手だ。とにかくストレートの球質が良い。渡辺監督もコメントしていたが、ストレートと分かっているのに打てないストレートを投げられるのが、大石投手なのだ。まるで現役時代の渡辺久信投手のようではないか。渡辺久信投手も現役時代は、ストライクゾーンにストレートを投げておけばほとんど打たれない、とにかく豪快な投手だった。だが大石投手は、その渡辺久信投手のストレートをも上回る。
早大の應武監督は大石投手を、早い時期からショートへコンバートさせることを考えていた。だが大石投手自身の強い意志により、投手専任の道を進んだという経緯がある。それは去年(2009年)の夏の出来事だった。日米大学野球で、大石投手がフォークを習得すれば投手専任を認めると應武監督は指示をした。大石投手自身はそれまでも練習ではフォークを投げていたものの、試合では一度も使ったことがない。だがほとんどぶっつけ本番という状態で日米野球でフォークを投げたら、意外としっかりと落ちて使える目処が立った。これにより大石投手はショートではなく、投手専任の道を進めることになった。自分の将来を自分の意思で切り開ける能力、これはプロに入ってからも十分活きるだろう。
さて、フォークボールの次はやはりストレートの話をしなければならない。大石投手のストレートは、北海道日本ハムのダルビッシュ投手や、阪神の藤川投手と同系統だ。通常のストレートはボールを握る際、人差し指と中指の間に指一本分のスペースを空ける。これによりコントロールの精度を高める。だが大石投手やダルビッシュ投手、藤川投手の場合は違う。ストレートの切れを最大限発揮させるため、人差し指と中指をくっつけているのだ。大石投手の場合は筆者が確認できた限りでは、すべてがすべてというわけではなさそうだが、しかし勝負に行った時のストレートは切れ重視のシフトで投げている。
人差し指と中指をくっつけて握るストレートのデメリットはコントロールの不安定さにある。反面メリットは、ボールの回転数を増やすことができるのだ。回転数、つまりスピンを強くすればするほど、ボールにはマグナス力が影響し、18.44m先に行ってもお辞儀しにくい正真正銘の真っ直ぐなボールを投げることができる。つまりバッターからすると、ホップしているように錯覚するボールになるというわけだ。
ライオンズには小野寺力投手や大沼幸二投手、さらにはシコースキー投手と言った150km以上のボールを投げる投手が何人も揃っている。だがいずれも大石投手のストレートとは球質が違う。上半身の力で投げるパワーピッチャーであるシコースキー投手は例外だとしても、小野寺投手・大沼投手と同じ150kmでも、大石投手のストレートには伸び・切れが彼ら以上にある。まったく同じ150kmのボールでも、大石投手のストレートは非常に打たれにくいという要素を持っている。しかも大石投手が素晴らしいのは、人差し指と中指をくっつけてボールを握っても、コントロールが乱れないという点だ。2010年夏に行われた世界選手権以降では変化球が抜けるシーンは何度か見受けられたが、しかしストレートの安定度はプロと比べても一級品だと評価して間違いないだろう。
大石投手は神宮球場での大学生最速記録である155kmをマークしているわけだが、これは西武ドームでは恐らく150km出るか出ないかという計測になるだろう。神宮球場は球速が出やすいが、逆に西武ドームは球速が出にくい。まさに両極端の球場だと言っていいだろう。確かに投球を見る限り、メジャーリーガーのような160km近い剛球というイメージは大石投手にはない。どちらかと言えば快速球というタイプだろう。そして大石投手自身、今はもう球速そのものにはこだわっていないと言う。今は球速よりも、ボールの切れを大切にしている。プロでも未だに球速にこだわる投手が多い中、この心掛けはまさに大人の成熟した投手の考え方だ。
さて、ファンが気になるのは起用法だろう。守護神をなかなか固定し切れないライオンズにおいて、ファンの声は大石投手には守護神になってもらいたいという意見が優勢のようだ。だが筆者は渡辺監督の考え同様、大石投手には先発を任せるべきだと思う。その理由は単純明快だ。クローサーというポジションでは、一週間にせいぜい3~4イニングしか投げることがない。だが先発の場合は一週間に多ければ9イニング以上投げることになる。これだけ素晴らしい投手を週に3イニングか、9イニングかと問われれば、起用する側からすれば当然後者を取るべきだろう。
ライオンズの先発陣が磐石ならば大石投手を当面はリリーフやクローサーとして起用するのも1つの手だろう。しかし現在のローテ確定投手では、20代投手はエース涌井秀章投手と岸孝之投手の2人しかいない。そろそろ世代交代ということも現実的に考えていかなければならない時期だ。渡辺監督は雄星投手・大石投手を自らの手で獲得したのだから、将来のことを考えてこの2投手はしっかりと育てていかなければならない。ちなみに変化球という目で見るならば、万全であれば雄星投手の方がリリーフ向きだと筆者は考えている。
何はともあれ、ライオンズは2年連続して素晴らしい投手をドラフトで獲得することができたのだ。そして大石投手は特に高い能力、技術をすでに習得しており、さらに伸び白も広い。小野和義・石井丈裕両投手コーチには、大石投手を球界ナンバー1投手に育て上げて欲しいと切に願うばかりだ。そしてファンとしてはその期待が非常に大きいというのが正直な意見でもある。
2010年10月31日 02:04
埼玉西武2011年度コーチングスタッフ発表
決定まで時間のかかっていたライオンズ来季のコーチングスタッフが、本日遂に発表された。筆者個人としては驚きもあった人事ではあったが、しかしながらバランスの取れた非常に良い人選だったと思う。このコーチングスタッフの指導が秋季練習中からになるのか、秋季キャンプからになるのかは分からないが、しかしせっかくならばなるべく早く指導させた方が、秋季キャンプにもスムーズに入ることができるだろう。1軍監督・・・渡辺久信
ヘッド兼打撃コーチ・・・土井正博
打撃コーチ補佐・・・熊澤とおる
投手コーチ・・・小野和義、石井丈裕
バッテリーコーチ・・・光山英和
バッテリーコーチ補佐・・・仲田秀司
守備走塁コーチ・・・鈴木康友、河田雄祐
2軍監督・・・行沢久隆
打撃コーチ・・・田辺徳雄
投手コーチ・・・橋本武広、石井貴
バッテリーコーチ・・・秋元宏作
守備走塁コーチ・・・黒田哲史、宮地克彦
トレーニングコーチ(1・2軍振り分け未定)
大迫幸一、坂元忍
コンディショニングコーチ(1・2軍振り分け未定)
米田進、南谷和樹
この中でも驚いたのは土井コーチの復帰と、光山コーチの就任だった。まず光山コーチだが、相馬コーチの体調が回復しているという情報も入っていたので、相馬コーチが復帰するものと思っていた。だが実際には近鉄出身で、西武球団とはほとんど関わりのなかった光山コーチが就任した。しかも光山コーチは日本代表スタッフ経験はあるものの、コーチ経験がない。一体どんな指導を展開するのか、筆者は今から楽しみだ。だが外部の血が入ったことで、ライオンズの捕手陣には良い刺激となるだろう。
そして土井コーチだが、66歳で4年振りのライオンズ復帰となった。今季はヘッドコーチがいない状況で、戦略が迷走することも多々あった。まだ監督経験の浅い渡辺監督にとっては、かなり心労も溜まるシーズンだったに違いない。だが土井コーチという大ベテランが復帰したことで、采配そのものに集中できるのではないだろうか。ヘッドコーチがいれば、監督はそれぞれの部門の情報はヘッドコーチから聞けば済む。だがいないと、各部門の担当者それぞれに聞いて回る必要も出てくるため、采配に集中できなくなるという弊害があった。経験・実績豊富の土井コーチ復帰も喜ばしいニュースだが、ヘッドコーチそのものが復活したというニュースは、さらに嬉しいニュースと捉えていいだろう。
さて、ふと気になるのは潮崎コーチの名前がなかったことだ。潮崎コーチは相馬コーチと共に編成への異動となった。相馬コーチの場合は体調面の問題もあったのかもしれない。では潮崎コーチはどうだったのか?これは解任ではない。潮崎コーチの意思を尊重した異動に他ならない。その理由は、潮崎コーチは現役時代から引退後はスカウトマンへの転身を希望していた。つまり編成スタッフだ。潮崎コーチは「アマチュア野球オタク」を自認しており、ノンプロなどのアマチュア野球を見るのが現役時代からの趣味だった。つまり潮崎コーチにとっては、コーチ就任は本意ではなかったのだ。だが今回編成部門に戻ったことで、潮崎コーチの意思は尊重された。
話は変わって投手部門だが、1軍は小野和義・石井丈裕両コーチの就任が発表された。この人選も基本に立ち返った形で、期待が持てる。やはり小野コーチは育成部門よりも、1軍で戦う集団を率いる姿の方が似合っている。2年振りの1軍ということもあり、色々なことを考えての異動となっただろう。現役時代の気迫溢れるピッチングを、今の若手投手陣にぜひ植え込んでもらいたいと思う。やはり戦う集団を率い、作るには、戦ってきた人物が打って付けだ。
最後は守備走塁担当だが、1軍は内野が鈴木コーチ、外野が河田コーチという布陣となった。鈴木コーチの1軍への異動は、筆者は1年前から願っていたことだ。鈴木コーチが指導する緻密な走塁・守備論は1軍でこそ際立つと思う。そしてノックの腕前も、鈴木コーチは素晴らしい。筆者は鈴木コーチのノックを間近で見て、実際に受けたこともあるが、惚れ惚れするようなノックを打つコーチだ。筆者個人は鈴木コーチの指導を受け、ノックの打ち方を変えたという経緯もある。ぜひ鈴木コーチのノックで、ライオンズの若き内野陣を叩き直してももらいたい。黄金時代には、石毛選手や辻選手に対してもノックを打っていた鈴木コーチだ。必ず来季、ライオンズの内野陣は大幅にレベルアップするはずだ。
簡単にではあるが、本日発表されたコーチングスタッフを見た筆者なりの感想を述べさせてもらった。各コーチのさらなる情報に関しては、今オフに書くつもりでいる選手名鑑ページで書き足していきたいと思う。納得のいく、非常に期待の持てる布陣となったが、しかし本番はこれからだ。秋季キャンプは地獄の厳しさになるという。各コーチには、地獄の鬼となり選手を鍛えて欲しいと思う。そして来季こそは、秋季練習のない秋を迎えてもらいたい。
2010年10月29日 23:58
埼玉西武2010年ドラフト指名選手一覧
またしても渡辺久信監督がやってのけてくれた。ドラフト会議が始まったのは17時。すぐに1位指名が読み上げられると、大石達也投手には西武を含め6球団からの指名が入った。早大の同期である斎藤佑樹投手には4球団。12球団中10球団の指名がこの2投手に集まったことになった。それだけこの2投手の実力は、今ドラフト候補生の中ではずば抜けていたということになる。6球団の競合ということは、クジに当たる確率は16%にしか過ぎない。ちなみに渡辺監督は昨年も、6球団の競合の末に雄星投手の交渉権を獲得している。昨年は一番目にクジを引き、今年は六番目に引いた。17時10分、6球団の代表が一斉にクジを開封すると、場内には去年以上の渡辺監督の歓喜の声が響き渡った。渡辺監督はクジを両手で握り締めると、まるで拝むかのように額まで持って行き、目を閉じ、紅潮させた顔で喜びをかみ締めた。渡辺監督自身、まさか2年連続当たるとは夢にも思っていなかっただろう。それもこれも、早大カラーであるエンジ色の下着をはいていたお陰だったのかもしれない。
大石達也投手は、言わずと知れた早大の守護神だ。来季西武がどのような起用をして行くのかは分からないが、クジを引いた直後のインタビューで渡辺監督は「先発として考えている」と明言した。大石投手の能力であれば、守護神はもちろんのこと、先発としても即戦力となるはずだ。2008年、ある球界関係者が言ったそうだ。「大石を今すぐCSで投げさせても、短いイニングの抑えなら十分通用するだろう」と。
今ドラフトは、筆者的に見れば例年になく大成功だったと思う。マスコミは即戦力左腕を中心に獲ると予測していたが、結局左腕は1人も獲得しなかった。その代わり素晴らしい選手を6人獲得することができた。どの選手も将来有望だ。順を追って紹介して行きたいと思う。
【ドラフト1位指名】 大石達也投手(早大)
1988年10月10日生、福岡県出身、182cm76kg、右投左打
言わずもがな速球の威力はプロでも十分通用するレベルだ。反面変化球の精度は同期の斎藤投手には敵わないものの、変化球を使った投球術は今年1年でかなり向上した。マックスは155kmで、フォーク(フォークチェンジ)・カーブ・スライダー・チェンジアップを投げる。早大の応武監督は早い時期から大石投手を遊撃手として育成しようとしたが、本人の強い意志により投手の道を進んだ。ショートを守る能力もあることから、フィールディングのレベルも高い。開幕1軍は当然だが、開幕ローテーション入りも狙えるだけの実力を備えている。まさに即戦力右腕だ。
【ドラフト2位指名】 牧田和久投手(日通)
1984年11月10日生、178cm78kg、右投右打
ライオンズに久しくいなかった松沼博久投手以来のサブマリンの使い手だ。非常にテンポ良く投げるのが特徴で、ストレートは130km前後、カーブは100km前後とまさに千葉ロッテの渡辺俊介投手を彷彿させる逸材だ。ストレートを速く見せる投球術は一球品だが、コントロールに多少の難がある。恐らく牧田投手の獲得路線は、今シーズン前半で行われた西武2軍対日通の交流試合で現実味を帯びたのではないだろうか。来季は2軍担当となることが濃厚な潮崎コーチからシンカーを教われば、1年目から1軍で活躍できる可能性が高い。
【ドラフト3位指名】 秋山翔吾外野手(八戸大)
1988年4月16日生、神奈川県出身、183cm83kg、右投左打
筆者一押しの選手だ。スポーツ誌の評価ではB扱いとなっているが、Aと言って間違いないだろう。秋山選手は大学生とは思えないほど卓越した野球理論を持ち合わせている。しかもただ知識として持っているのではなく、それを実戦に活かす高い能力も持っている。50mは5.9秒という俊足で、しかも強肩だ。バッティングに関しては内角低めに弱点を持つ以外は、どのコースも満遍なく打ち返すことができる。しかも大学屈指の左腕東洋大の乾投手からホームランを放つなど、左投手も苦にしない。さらに守備に関しては、自信を持って前を守ることができる。この冬の体力強化次第では、1年目から1軍外野陣に割って入ることができるだろう。
【ドラフト4位指名】 前川恭兵投手(阪南大高)
1992年6月9日生、187cm74kg、右投右打
実に投手らしい投手だ。ゆったりとしたフォームから切れのあるストレートとスライダーを投げ込み、打者に的を絞らせない。コントロールなどはまだまだ荒削りな部分もあるが、2~3年後には1軍で活躍できるだけの潜在能力を持っている。前川投手にはあまり身体を大きくすることは考えず、今の体型を維持して体力・筋力強化に努めてもらいたい。そうすれば将来は間違いなくローテを狙えるだけの投手に成長するはずだ。
【ドラフト5位指名】 林崎遼内野手(東洋大)
1988年6月12日生、174cm80kg、右投右打
東洋大学のショートストッパー。実力が伴えば甘いマスクから女性ファンが増えそうな予感だ。林崎選手のプレーはほとんど見たことはないのだが、打撃にはパンチ力があるようだ。一昨年の浅村選手、昨年の美沢選手に続き、ライオンズは今年もショートストッパーを獲得した。この辺からも中島裕之選手の後釜育成が急務であることが伺える。
【ドラフト6位指名】 熊代聖人外野手(王子製紙)
1989年4月18日生、愛媛県出身、175cm72kg、右投右打
残念ながら熊代選手に関しては、筆者はほとんど情報を持ち合わせてはいない。ただ選手名鑑などをチェックしてみると、高校時代までは投手だったことから、地肩の強さはあるのかもしれない。そして今治西高時代は3回も甲子園の土を踏み、3年の夏にはエースとしてベスト8にも輝いている。この大舞台での経験は必ずプロでも活きるはずなので、栗山巧選手以外は流動的となっている外野陣に、1日でも早く割って入ってもらいたいと思う。
2010年10月28日 21:31
栗山巧選手の本塁打が今季1/3になった理由
もし筆者が、今季のライオンズMVPを選出するとすれば、迷わずに栗山巧選手の名前を挙げるだろう。栗山選手はライオンズでは唯一フルイニング出場を果たし、外野手としてのフルイニング出場は西武球団では史上初の快挙だ。そして数字的にも安打数・打点・出塁率・四球などで軒並みキャリアハイを達成した。さらにはチーム状況により2番だけではなく、3番や4番を務めるなど、形としては残らない貢献度は計り知れない。昨季はオープン戦は絶好調だったにも関わらず、開幕すると21打席連続ノーヒットという不振に喘ぎ、シーズンは最後まで復調することができなかった。だが今季はそのどん底を味わっただけあり、選手として一段レベルアップしたように思えた。しかし栗山選手ほどの高い能力があれば、もっとレベルの高い選手になりうるだろう。今季は個人としては素晴らしい数字を残した栗山選手ではあったが、こと本塁打数に関して言えば4本で、これは昨季の3分の1の数字だ。この数字には多少の物足りなさを感じずにはいられない。ではなぜこれほどまでに本塁打数が激減してしまったのだろうか?
恐らくその理由は、昨年の不振に原因があるのだと思う。昨年あれだけ苦しんでしまった影響で、今季はあまりに謙虚になり過ぎてしまったのだろう。今季の栗山選手に対し、キャリアハイを目指すバッティングというよりは、不振にならないためのバッティングという印象が、筆者の頭の中には強く残っている。もちろんそれが間違いというわけではない。なぜなら部門別に見ればしっかりとキャリアハイを達成できているためだ。今季の栗山選手に文句を付ける必要などはない。それどころか筆者は、MVPにしたいと思っているほどなのだから。だが栗山選手自身、今季の本塁打の少なさは気にしているようで、秋季練習やキャンプでは、飛距離を伸ばすための改良にも取り組んでいくようだ。
さて、栗山選手は不振にならないためのバッティングをしていると先述したわけだが、それは一体どういうことなのだろうか。読者の方々の多くはすでにお気づきかとは思うが、それでもあえて言うならば、それは逆方向へのバッティングということになる。栗山選手は今季、この逆方向に強いこだわりを持っているようだった。なぜ逆方向のバッティングが不振になりにくいかと言うと、逆方向(栗山選手の場合はレフト方向)に打つには、インサイドアウトというスウィングが必須になるためだ。インサイドアウトとは、バットを身体の近くから出し、ボールの内側、つまりボールの自分側を内側から強く叩くというバッティングだ。これを心掛けることでスウィングがコンパクトかつシャープになり、ミート力が安定する。栗山選手はこのインサイドアウトを失わなかったことで、今季.310というハイアベレージを記録することができた。
だが左打者がこのインサイドアウトにこだわり過ぎてしまうと、栗山選手のように本塁打が減る傾向が強くなる。それは先日のコラムでも書いた通り、左打者の打球はスライスしやすくなるからだ。打球がスライスされると、ボールはファールゾーンに曲がりながら飛んで行く。これは打球がファールゾーンに飛ぶばかりではなく、飛距離そのものを縮めてしまう。これが栗山選手の本塁打数が減少した原因だ。今季最後のレギュラーシーズン最後の6試合を見ても、三振・四球を除いた打球方向は、左方向12・中方向6・右方向4と極端な数字が出ている。
打者は調子を落とし始めると、バットをドアスウィングさせる傾向が強くなる。今季のG.G.佐藤選手はその典型だった。インサイドアウトは、不調になりそうな時にだけ意識すれば良いものだと筆者は考えている。それ以外の時は、内角球や威力足りないボールに対してはどんどん引っ張ってしまって良いと思う。そうすれば飛距離のアベレージは確実にアップするし、本塁打数も4本という数字では終わらないはずだ。だが引っ張るバッティングを繰り返してしまうと、どんなバッターでもいつの間にかドアスウィングになってしまうことがある。インサイドアウトとは、そんな時に強く意識すれば良いのだ。ちなみに今季は中島選手もドアスウィングによる不調時期が長かった。
渡辺監督は栗山選手を2番に据えるにあたり、ひょっとしたら故三原脩監督が最強西鉄軍団や、戦後初優勝を決めた際の巨人監督時代に実践した流線型打線を意識しているのかもしれない。西鉄で言えば豊田泰光選手、巨人で言えば赤バットの川上哲治選手や千葉茂選手だ。ちなみに今季の栗山選手の起用法は、まさに2番豊田選手の起用法とまったく同じだった。西鉄では3番の中西太選手や4番の青バット大下弘選手が故障したり不調になったりすると、2番の豊田選手が3番・4番を打ちチームの支柱を守った。まさに今季の栗山選手とまったく同じ起用法だったのだ。果たしはこれは偶然だろうか。
流線型打線に照らし合わせて考えると、恐らく2011年はやっと完成に近づくのではないかと筆者は考えている。その理由は、打率も本塁打数も残せるフェルナンデス選手が加入したためだ。フェルナンデス選手が入ったことで打率の低い中村剛也選手には5番を打たせることができる。1番片岡・2番栗山・3番中島・4番フェルナンデス・5番中村という陣容が整えば、1~5番までの得点力は他チームの追随を許さないだろう。
打線に関しての話はまた別の機会にゆっくりすることにして、話は栗山選手に戻そう。栗山選手が本塁打数で20本を越えられないのは、その体型にも多少の原因がある。例えば中島選手と比べてみよう。中島選手の180cm83kgに対し、栗山選手は177cm85kgだ。身長は栗山選手の方が3cmも低いのに、体重は2kgも勝っている。これは体脂肪率が少なくなければ考えられない数字だ。つまり中島選手以上に、栗山選手は体内脂肪率が低いと予想することができる。では脂肪量と本塁打数とに一体どんな関係があるのだろうか?
まだ二度目の三冠王を獲る前の落合博満選手の話をしよう。オールドファンはご存知かもしれないが、プロ入り直後の落合選手は非常にスマートだった。プロ野球選手の中では細い部類にも入れるほどだ。だがその頃、落合選手は本塁打数が伸びないことに悩んでいた(と言っても30本は越していたのだが)。落合選手は技術的に、理論的に様々な改良に取り組んだが結果が伴わない。そんなことを食卓でこぼしていた際、信子夫人が「ホームランバッターはみんなあんこ体型」であることを何気なく指摘した。物は試しと落合選手は夫人のアイディアを実践し、身体を太くしていった。その結果、82年には「平凡な数字」ということで豊田泰光氏に批判された最初の三冠王時代の数字.325、32本、99打点を大幅に上回り、85年には.367、52本、146打点という圧倒的な数字を残し、豊田氏を納得させる形で二度目の三冠王を達成した。
パワーとは、スピード×エネルギーに相当する。つまりこれは筋肉が担当する分野だ。だがこれにさらなるプラスアルファを加えるならば、筋肉だけではダメなのだ。ある程度の体内脂肪が必要とされる。カチカチとぶつかり合う2つの振り子玉を想像してみて欲しい。ぶつかり合う振り子玉の後方に、脂肪に相当する別の錘を付けると、振り子はさらに力強くぶつかり合うことになる。栗山選手や中島選手には、筋力はあるが脂肪というプラスアルファの錘が少々足りないのだ。逆に中村選手の場合は、脂肪がある分6割のスウィングでもスタンドインさせることができる。
だからと言って、栗山選手に太れとは言わないし、そうなる必要もないと思う。先述したようにインサイドアウトという考えをある程度解除してあげれば、シーズン20本打つ能力は間違いなく持っているバッターだ。.330打って20本以上打てれば、豊田泰光選手を越える2番バッターになれる可能性も高い。そして栗山選手に18犠打もさせる必要はなくなるはずだ。そもそも栗山選手を2番に置いて18犠打もさせるというのが、今季一番中途半端なベンチワークだったように筆者は考える。栗山選手を、栗山選手らしく起用してあげれば、栗山選手は来季間違いなく再びベストナインに名を連ねるだけの選手に躍進するはずだ。もちろん、今季もまだベストナインの可能性はあるが、どうせなら日本一を達成した上で他の賞も同時に獲ってもらいたいと筆者は願っている。
2010年10月28日 02:12
個性派集団だがチーム自体には個性のない西武
渡辺監督は、11月の秋季キャンプを非常に厳しい内容にするつもりのようだ。昨年の秋季キャンプも厳しいと言われていたようだが、今年はそれをさらに上回るらしい。筆者としてはこれは良いことだと思う。オフを直前に控えた秋季キャンプは、選手の体力が尽きるほどハードなトレーニングを課すべきだろう。そしてこれにはメリットがある。オーバーアウトした身体では、正しいメカニズムでバットを振り、正しいメカニズムでボールを投げなければまともなプレーができなくなるのだ。つまりオーバーアウトさせることで、身体には自然と正しいメカニズムで動こうとする本能が作動し出す。そしてこれこそが、無駄のないスウィング、無駄のないピッチングモーションとなるわけだ。明日も試合のあるシーズン中なら話は別だ。明日も試合があるのに毎日オーバーアウトさせていては、身体は悲鳴を上げるばかりで故障にも繋がるだろう。厳しい地獄の特訓は、秋季キャンプだからこそできることなのだ。渡辺監督自身、秋季練習からノックバットを持ってノックの練習をし出しているらしい。監督も流石に今年は「選手を叩き直そう」という気持ちが強いのだろう。
いま各球団の実力は拮抗状態にある。パ・リーグにせよセ・リーグにせよ、出遅れてしまう球団は多少あるものの、その他の中では頭一つ飛び出るようなチームはない。毎年どのチームがペナントレースを制しても不思議はないくらいだ。だからこそ求められるのが、個性なのではないだろうか。
例えば中日ドラゴンズであれば、打力に弱点は抱えるが投手力は球界随一だ。北海道日本ハムならば鉄壁の守備。このような個性が各チームには求められている。実際2008年は、その個性を強烈なまでに発揮した埼玉西武ライオンズが日本一に輝いている。198本塁打を放ったノーリミット打線は、他球団を震撼させるほどの破壊力を誇った。それに加え防御率も3.86とまずますの数字を記録し、一時はぶっちぎりでの優勝も期待されていたほどだった。
そして個性と共に求められるのが、定石外れの野球だ。各球団実力が拮抗している状態で、どのチームもセオリー通りの野球をしていては、「普通」の戦績しか挙げることはできないだろう。もう2年半くらい前の話になるだろうか。巨人対楽天の交流戦で、最終回巨人の二死一塁という状況。原辰徳監督は「行けるなら行け」と盗塁のサインを出した。だが結果は盗塁失敗によりゲームセット。楽天の野村克也監督は試合後、トニー谷さんの歌を真似て「バッカじゃなかろうかルンバ」と原采配を茶化したりもした。だがこの采配は、賛否の否の方が圧倒的に多かったものの、筆者としては悪い戦術ではなかったと思っている。セオリーに照らし合わせれば、確かに愚策と言われても仕方のない結果ではあるが。
だがこの盗塁を100%成功させるための采配まで手が及んでいたならば、これは最高の戦術となったはずだ。ちなみに筆者が知る限りでは、ビハインドの最終回、二死一塁で盗塁をさせるという戦術を初めて用いたのは、引退直後の第一次政権時代の長嶋茂雄監督だったと思う。この時もこの戦術は大変なバッシングを浴びていた。セオリーからすればこのランナーを大事にし、ランナーを貯めながら好機を待つのが好しとされる。
だがセオリー通りであれば、この一塁ランナーを生還させるためには長打が出ない限り、最低でも2本のヒットが必要となる。だが盗塁を成功させて、次のバッターが粘ってライト前ヒットでも打てれば、1本のヒットで1点を挙げることができる。渡辺監督が反管理野球を今後も実践して行くのであれば、このような相手チームが度肝を抜かすような定石外れの超積極的な攻撃を仕掛けて行ってもらいたい。だがたまにやるようではダメだ。たまにやって、もし失敗するようなことがあれば、それは定石外れだとバッシングされるだけだ。重要なのは、例え失敗してもシーズンを通してその戦術を大切にすることだ。そうすることによって、選手もその定石外れの采配を、予測しながら遂行することができる。そうすれば成功率も確実にアップしていく。
この2年間の渡辺野球には、2008年のような強烈な個性がなかった。上述した定石外れの采配をするしないは別として、とにかく2011年シーズンは、渡辺監督ならではの野球を魅せて欲しいと思う。例えばエース涌井秀章投手を週2回登板させてもいいではないか。岸孝之投手が6回を投げて勝ち投手になった翌日、5回から9回まで投げさせて2日連続勝ち投手にしてもいいではないか。筆者はこれを決して酷使だとは思わない。酷使とは、勝とうが負けようが「投げさせられている」という感覚で投げている時のことだ。本人が納得して行けるなら行く、これは酷使とは言わない。そもそも投手の分業制・ローテーション制は、アメリカの人種差別の克服が目当てで作り上げられたものだ。
甲子園を目指す高校球児ですら、規定はできたものの連投に連投を重ねることがある。公式戦は春・夏・秋の短期3回だけと思われている方も多いとは思うが、強豪校は土日に3試合4試合をこなすことも決して珍しくはない。高校生にできて、プロ野球のエース級投手にできないということはないだろう。何も毎週毎回連投しろというのではない。大事な首位攻防戦だけでもいいではないか。
正直言って、現代のプロ野球は面白みに欠けている。打席では1球ごとにサインが出され、それが選手の個性を殺すことにも繋がっている。例えばプロ野球のファンではない人が野球観戦をした場合、西武戦を観るのも巨人戦を観るの、そこに違いは感じられないと思う。だがこれではプロ野球としてのコンテンツが成り立っているとは言えない。西武には西武の、巨人には巨人特有の野球がなくてはならない。さらにはパにはパの、セにはセの野球があって欲しいとも思う。
野球に限らず、一般社会でも同じだと思う。無難な考え方をする人が集まる現代社会に於いて、最終的に頭角を現せるのは個性がある人材だ。例えば不器用だが挨拶だけは非常に元気とか、口下手だが誠心誠意だけは誰にも負けないとか。今のライオンズには、キャッチフレーズにもなりうる強烈な個性が必要だ。毎年個性派集団と言われているライオンズだが、個性的なのは選手だけでチーム自体に個性がない。チームに個性がなければ、個性派集団もまとまるにまとまれないはずだ。そしてその個性派たちの一番上に立つ個性派が、現役時代は「新人類」ともてはやされた渡辺久信監督なのだ。チームのOBや球界の重鎮たちの言葉をあまり気にすることなく、来季はライオンズを賛否伴うほどの個性派集団に仕立て上げてもらいたい。
チーム作りが良かろうが悪かろうが、必ず賛否は両論存在してくる。だが否ばかりを気にしていては決して前へは進めない。それならば例え賛がマイノリティであっても、信念があるのならばそれを貫き、自らの野球哲学を100%表現して欲しいと思う。そうすれば選手にもファンにも、チームが向かうべき方向が明確になる。それこそチームは三位一体となれる。そうすれば強力なスクラムを組んで優勝に突き進んでいけるはずだ。
2010年10月27日 01:57
左対左が絶対的に打者有利となる根拠
今回の記事は、前回の星野投手のコラムの番外編として書き進めてみようと思う。筆者はシーズン中から何度も、左先発投手に対してこそ左打者を当てるべきだと言ってきた。だがゲームレビューでは、それほど詳しい根拠はスペースの都合で書かずにいた。だがシーズンオフとなりスペースはいくらでもあるので、ここで改めてその根拠を解説して行こうと思う。投打の対決には4種類ある。右投手対右打者、左対左、右対左、左対右だ。この4つの中で最も多いのは間違いなく右対右だろう。そして次が右対左だ。つまり球界には右投手が多いという傾向と、左投手が少ないという傾向が同時に入り混じっているわけだ。星野投手のコラムでは、これを「慣れ」という言葉を使って説明をした。一般的な理屈を述べるのであれば、左打者は、右打者よりも一塁に近い場所に立って打撃を行うため、その距離の分内野安打が増える。内野安打が増えれば当然打率も上がって行く。このような理由から、お子さんを右打ちから左打ちに転向させる親御さんが多いと聞く。だがこれに関しては相手投手は右でも左でも関係ないということになる。だが筆者は、左投手にこそ左打者を当てるべきだと考えている。あくまでも対左投手が条件なのだ。
左投手対左打者という対決において、セオリーでは左打者が非常に不利だということは星野投手のコラムですでに述べたことだ。だが「慣れ」という言葉を使い、左打者が左投手に慣れることができれば、左対左ほど打者に有利な対決はない。筆者は自らの野球理論からそのように考えている。だがこれから述べるその理論も、監督(もしくは打撃コーチ)が左投手に対し右打者しか起用しないのであれば意味はなさない。なぜなら、左投手に慣れることができないからだ。プロ野球の打者が3割前後の数字を残すのに必要な慣れの機会は、最低300打席と言われている。つまりどんなに才能のあるバッターであっても、年間300打席以上立てない限りは1軍投手に慣れることはできない。しかも300打席の内、一流投手との対戦は数えるほどしかないだろう。この数字の中からあえて左対左の対決を回避してしまうようなことをすれば、それこそ左バッターは一向に一流にはなれなくなる。
左対左の対決で、その対決に慣れた時左打者の方が有利という理由は、一言で言えばファールを打てるということに尽きる。いや、厳密に言えばファールになると言った方が正確だろう。
多くの左打者はバットスウィングの途中から、一塁方向へ向かう動きが入ってくる。イチロー選手もよくする打ち方だが、これを「走り打ち」と言う。もちろんすべてがすべて走り打ちというわけではないのだが、多かれ少なかれ、左打者は走り打ちを行っている。そしてこの走り打ちがポイントとなるのだ。走り打ちそのもののポイントや、骨盤などの動き、バットスウィングの軌道に関しては、以前上本達之捕手や坂田遼選手を例に何度か解説してきたが、これに関しては後日改めてまた解説するので、今回は省くことにしたいと思う。
話を投手に変えてみようと思う。しかも投球のコースを、配球の基本中の基本となる外角低めに絞ってしまう。左打者の外角低めと言えば、ホームベースの一番右打席寄りの低めということになる。ここに投球する際、まず右投手の場合だが、ボールにはそれほど左右の角度が生じることはない。これはスライダーにせよ、ツーシームにせよ同じだ。だが左投手の場合は違う。左投手はピッチャーズプレートの一塁側の端を踏んでいる。そこから左手でこのコースに投げると、いわゆるクロスファイアーという対角線を使った、角度の付いたボールになるのだ。左対左の対決を打者有利にするためには、左打者にこのクロスファイアーを慣れさせる必要があるわけだ。
外角低めと言えば、最もヒットが出にくく、最も長打になりにくいボールのコースだ。しかもコースとしてはボールゾーンギリギリのため、2ストライクなら見送ればストライクになることもある。ましてやクロスファイアーであれば見逃せばほぼ確実にストライクとコールされるだろう。ということは、難しいコースであるとは言え、ここを簡単に見逃していては三振が増えてしまうことになる。だが左投手に慣れている左打者であれば、これを簡単にファールにすることができるのだ。
左打者が、左投手の外角低めのクロスファイアーやスライダーを打ちに行く場合、非常に面白い現象が起る。バットは一塁方向へ向かい、ボールは三塁方向に向かって飛んで来る。この2つが重なることで、インパクトがスライス状態になるのだ。これを文章だけで説明するのは非常に難しいのだが、通常バットは面を利用した横軸で使う。だがスライスという状況では、バットをボールに対して縦に入れて打つという感覚になる。バットのヘッドがキャッチャーを向いているのに近い段階で、インパクトの瞬間を迎える。ボールとバットの向かう方向の相違性により、ボールがバットの表面をスリップしていくような状態で、インパクトがスライスされる。当然だがこの状態でボールがバットに当たれば、100%ファールになる。このファールこそ、左対左で打者が有利に立つために必要な要素なのだ。
投手の順手・逆手を問わず、外角低めを確実にヒットにできるバッターはほとんどいない。しかもボールは、ホームベースをかすりさえすればストライクとなるので、事実上ストライクゾーンは、ホームベースよりもボール1個分外側にあるということになる。この状況で走り打ちをする左打者にとっては、左投手が投げるクロスファイアーやスライダーは、手が届くとは思えないほど遠く感じるはずだ。打者は一塁方向に向かっているのに、ボールは逆方向に流れていってしまうのだから。だが左投手を慣れることで、左打者はそこは辛うじて手が届く範囲だということを、身体にインプットさせることができる。つまり簡単に見逃さないようになり、追い込まれても身体が反応してくれるようになる。これが「慣れ」や「反復練習」の必要性だ。合気道の師範藤平光一先生の「理詰めで鍛錬し無で戦う」という言葉にも繋がっていくことだ。頭で分かっていても、本番になって身体が反応してくれないのでは意味がない。野球は間があるスポーツだが、考えられるのはボールデッドにおいてのみだ。ボールが動いている状況で考えていては、考えている間にプレーはあっという間に終わってしまう。
打者とすれば外角低めという難しいコースのボールを、追い込まれてもファールで逃げ続けることができれば、あとは甘いボールを待てば良いだけだ。外角低めを攻められた後であれば、内角ギリギリに来ない限りはすべてが甘いボールに見えるはずだ。こうなってしまえば、プロの一流打者であれば簡単にヒットを打つことができるだろう。これこそが、筆者が左投手にこそ左打者を当ててもらいたい根拠なのだ。
では右対右、右対左、左対右ではどうなのだろうか。残念ながら、左対左の時のようなスライス効果を得ることはまずできないだろう。左対左以外ではいずれの場合もスライスではなく、フックした状態でインパクトすることになり、外角低目をファールにするには非常に高度が技術が必要となってくる。だがどんなにファール打ちの名人であっても、フックした状態でインパクトを迎えれば、ほぼすべての打球がフェアゾーンに転がってしまう。つまりぼてぼての内野ゴロに終わってしまうということだ。野球というそういう風に上手く設計されたスポーツなのだ。だが左対左ではこれがファールになる。つまり、左対左以外では内野ゴロでアウトになってしまうものが、左対左であれば簡単にファールにすることができ、アウトにはならないのだ。
「1塁までの距離が近いから左打ちに転向する」という浅はかな考えは、プロであればすべきではないだろう。足の速さを活かすために左打ちを始めるという選手は多いが、その足もバッティング技術がなければ決して活かすことは出来ない。そして起用する側も、左対左だから打てないという時代遅れの誤った理論を捨て、左投手だからこそ左打者を立たせるべきだと筆者は声を大にして言いたい。プロチームの監督には今日の勝利や今年の優勝だけを考えるのではなく、3年後や5年後にもまだ優勝し続けられるチーム作りを目指し、采配を振るってもらいたい。今日勝つための采配だけでは、チームは決して常勝時代を迎えることはないだろう。今日勝つために左投手から左打者を外すのではなく、監督が「こいつは一流に育てたい」と決めた左打者がいるのなら、数字が低迷したとしても使い続けることだ。筆者が今季最も残念だったのが、打者として成長著しかった原拓也選手を、今季ほとんど飛躍させられなかったことだ。原選手は守備要因に甘んじるレベルの選手ではないと筆者は確信している。彼を開花させることができれば、首位打者争いに食い込めるだけの活躍をするだろう。そのためにも監督・コーチは、左対左の誤った理論は勇気を持って捨ててしまわなければならない。そうしなければ、才能ある左打者をどんどん潰してしまうことにもなりかねないからだ。
2010年10月26日 02:31
星野智樹投手の不調の原因、その解決方法
星野智樹投手がオーバースローに再転向するというニュースが報じられた。星野投手と言えば、入団時はオーバースローで先発投手として期待されていたが、結果を残すことができずに中継ぎに降格させられたという経緯がある。その後「手塚道場」の門を叩き、投球動作に関するメカニズムを学び、サイドスローへの転向を成功させている。あのタフィ・ローズ選手が、星野投手をまったく打てなかったという事実を覚えているファンの方も多いと思う。2008年には新任の渡辺久信監督の計らいもあり、星野投手は見事な復活劇を遂げた。防御率は2.38で、一度の失敗でも防御率が跳ね上がってしまうリリーバーとしては、素晴らしい数字だったと言える。だが2009年から今年にかけては、その左腕はまったく奮わなかった。いや、実際には2009年の前半戦は素晴らしい活躍をしていた。だが星野投手以外のリリーバーが総崩れとなってしまい、その負担が星野投手にかかってしまうことで、後半戦は一気に調子を崩してしまった。以来調子を上げることができず、2009年には4点台に跳ね上がった防御率は、今季はその倍、8点台にまでなってしまった。今回のオーバースローへの再転向は、この低迷を打破するためのものだ。
星野投手は非常にストイックで、明るい性格からは想像もできないほど練習熱心な選手として知られている。その星野投手を筆者は入団時からずっと応援しているわけだが、結果を残せた2008年と、去年・今年を比べても、明らかに衰えた部分は見受けられない。もちろん年齢による衰えは年々少しずつ増しているだろうが、しかしここまで急激に成績が低下するほどのものではないと思う。筋肉そのものは30代半ばになると、回復力の幅が狭くなっていく。若い頃は先発完投して体力を使い切っても、しっかりと休養をとればまた元通りに回復する。だが30代中盤になると、この回復幅が狭まることにより、一度体力を使い切ってしまうと回復までに信じられないくらいの時間を要する。今季西口文也投手が先発してベストピッチを見せたにも関わらず、一度登録を抹消して10日後に先発させた理由もここにあった。
筋肉の回復幅が狭まるということは、生理学的にも認められているところだ。だが星野投手は先発ではなく、リリーバーだ。体力を使い切るという状況は皆無に等しい。つまり体力を理由に星野投手の成績が低迷したという理屈は成り立たない。では何が理由だったのか?それは「慣れ」だ。
試合の大事な局面、なぜ左打者に対して左のリリーバーをワンポイントで起用するのか。セオリーとしてこれを解説するならば、まず左打者の特性が挙げられる。多くの左打者はボールを打つ際、その動作の途中から一塁方向への動きが入り込んでくる。つまり分かりやすく言えば、一塁に走り出しながら打っているということになる。そのために、左投手が投げるスライダーやカーブ、つまり走り出す方向とは逆側に曲がっていくボールを苦手とする。監督たちはこれを理由に、左打者に対し左投手をぶつけるわけだ。
しかしこの左打者の弱点を解決する方法が1つだけある。それが「慣れ」なのだ。セオリーとして説明するならば上記のようになるが、統計的に説明をするならば、球界の絶対的な左投手不足というものが挙げられる。つまり日本球界のほとんどの投手が右投げなのだ。それは各球団常時左投手探しに躍起になっている事実からも伺える。野球というスポーツは、反復練習が物を語るスポーツだ。右の良い投手を打つ練習ならいつでもできるが、左の良い投手を練習する機会はほとんどない。つまり打者は、左投手に慣れることができないのだ。もちろん二流の左ピッチャーならばいくらでもいる。だが二流を打って一流に慣れることはできない。
星野投手は長年「左殺し」として活躍し続けた。活躍し続けたという理由で、打者に慣れられてしまったのだ。星野投手が近年調子を落としている原因は、筆者はひとえにここにあると考えている。そのためオーバースローに転向するというニュースを読んだ時は、これは面白いぞとも思った。打者を抑えるには、ほんの少しの変化があれば十分だ。星野投手自身は腕を30cm以上上げたつもりでいたようだが、その記事によれば5cm程度しか上がっていなかったらしい。ただ実際に星野投手を見たわけではないので、これが事実なのか冗談なのかは筆者には分からない。だがほんの少し何かを変えることで、打者はほんの少しずつタイミングを狂わされることは確かだろう。そしてほんの少しタイミングを崩すことができれば、今季はヒットにされていた打球も、内野ゴロにすることも可能だ。
いま星野投手に必要なのは、間違いなく打者の目先を変えるということだ。そのためには左打者の胸元に食い込むツーシーム(シュート)の習得なども効果的となるだろう。ツーシームはオーバースローであればストレートと同じ投げ方で投げられるため、肩・肘に負担をかけることなく投げられるようになる。星野投手は来季は34歳となり、いよいよ本格的にベテランの域に突入していく。だが老け込むにはまだまだ早いだろう。近年は左腕不足に悩まされているライオンズだが、星野投手が完全復活してくれれば、今後数年はその心配も軽減されるというものだ。星野投手には何とか頑張ってもらい、来季は是が非でも完全復活を遂げてもらいたいと思う。
2010年10月25日 00:18
西武上位指名候補、斎藤・大石・榎田の評価
今年のドラフト会議もいよいよ5日後に迫った。昨年は強豪の末に渡辺監督が雄星投手の交渉権を見事引き当てたわけだが、果たして今季はどのような補強を行うのだろうか。これまで上位指名候補で名前が挙がって来ているのは早大の斎藤佑樹投手、大石達也投手、東京ガスの榎田大樹投手らだ。ドラフト全体としては大学・社会人選手の即戦力投手を中心に、5~6人の指名になるらしい。名前を挙げた3投手に関して筆者は、斎藤投手は2006年の甲子園から。大石・榎田両投手は昨年辺りから見るようになった。まず榎田投手だが、179cmのサウスポー投手だ。ストレートは140km前後でスライダー、カーブを投げる。それと時々チェンジアップのようなボールを投げることもある。左腕リリーバーの補強は最優先事項になると思うのだが、筆者の正直な感想を言えば、榎田投手が即戦力としてすぐに1軍で活躍できるかどうかは確信は持てない。社会人投手としては活躍をしている投手だが、プロレベルで見れば見劣りしてしまう。そして何よりも変化球の精度がそれほど高くはない。アマチュアは抑えられても、プロ野球1軍レベルでの主力左打者を抑えられるとは思えない。斎藤・大石両投手を指名し競合になるのであれば、榎田投手を一本釣りしようという作戦もあるようだが、勝負事に関し無難な作戦はチームを強くすることはない。将来を考えれば榎田投手はまだまだ成長する可能性は高いが、しかし即戦力と考えるのならば、それは少し違うような気がする。
続いて大石投手だが、彼のストレートは本当に素晴らしい。現代の野球選手特有の股関節の硬さは榎田投手同様感じられるものの、榎田投手と明らかに違う点は、力を抜くことを知っているということだ。力を抜いて、リラックスした状態で投球することで、ボールの切れが増すことを理解している。変化球に関してはカーブかスライダーのようなボールを投げるのは見たことはあるが、それほど精度は高くはなさそうだ。だが力を抜いて投げている分、150kmを計測していてもボールのコントロールや切れは良い。ほとんどのボールを、キャッチャーミット付近に投げ込む技術を持っている。フォアボールで自滅するような投手ではないだろう。数年後の守護神を育てるという意味では、競合を覚悟で大石投手を獲りに行くのがベストではないかと思う。クジに外れた時のリスクは大きいが、しかしそのリスクを負う価値はあるだろう。
最後に斎藤祐樹投手だが、2006年に田中将大投手と投げ合った際は田中投手とは異なり、まだプロでは通用しないだろうと筆者は感じていた。だが何度か見た今年の斎藤投手は大人の投手に成長していた。投手としての威圧感や恐さなどはないが、低目への制球力はアマ球界では間違いなくトップクラスで、この制球力があればプロの1軍でも1年目からローテーション投手として食い込めるチャンスはあるだろう。恐らくこの制球力は軸足のディップに秘密が隠されているのだと思う。本来ディッピングといって、投球時に軸足の膝を深く曲げるのは良しとはされない。その理由は、投球方向に対してエネルギーを増大させにくくなるためだ。だがエネルギーの爆発をあえて抑えることにより、低目への制球力に磨きをかけている。先に名前を挙げた3投手の中では、最も完成度の高い先発タイプの投手と評価することができるだろう。
左腕リリーバーを獲得することも今オフの命題とはなっているが、しかし目先のことだけを考えて、大石・斎藤両投手の指名を回避するのは、あまりにももったいないというものだ。榎田投手を1位指名するのであれば、本人には申し訳ないが、大石・斎藤両投手の外れ1位という形がベストだと思う。昨年雄星投手を競合覚悟で指名したように、今年もリスクを犯してでもその年で一番良い選手の獲得を狙ってもらいたいと思う。
2010年10月23日 23:19
戦う集団に必要なチームワークのあり方
筆者はこう考えている。チームワークとは、チームワークを作ろうとして生み出されるものではない、と。つまり、チームワークを良くしようと努力することは、本物のチームワークには繋がらないということだ。プロ野球チームという戦う集団において、チームワークとは仲良くするという意味ではない。そもそも戦う集団において、チームメイトと仲良くする必要は筆者はないと考えている人間だ。もちろん選手間、人間としての信頼関係はある程度は必要だが、友だち感覚で仲良くなる必要性はない。それが筆者の持論だ。60年にもなるライオンズ史には二度、黄金時代と呼ばれた頃があった。一度目は故三原脩監督が率いた西鉄ライオンズ3連覇の時代、二度目は森祇晶監督が率いた80~90年代前半にかけての西武ライオンズだ。もちろんその頃と今のライオンズとを純粋に比較することはできない。だがこの2つの黄金時代と、今のライオンズとで最も異なる点は、チームメイト同士の関係だ。
現在のライオンズは選手同士が友だち感覚で仲が良い。これが良いとか悪いとかではないのだろうが、筆者にはこれが、言葉は悪いかもしれないが馴れ合いにしか感じられないのだ。これを良しとするファンもいることから、あくまでも相対性理論の片側の話でしかないのだが、筆者はこの選手間の関係には大きな不満を抱いている。実際どうかは分からない。実際グラウンド上でどのような関係を保ち、どのような言葉が交わされているのかは分からないが、現在のライオンズにおいて、大事な局面で誰かがエラーをした際、それをチームメイトとして「もっとしっかりしろ!」と批判できる選手は一体何人いるだろうか?数年前、伊東勤捕手が橋本武広投手をマウンド上で「びびるな!」と一喝した時のように。
エラーをした選手に「ドンマイ」と声をかけて慰める。美しいシーンではあるが、だがこれはアマチュアでこそ成り立つ美しさだと筆者は考える。年俸何千万円、何億円ももらっている選手がかける言葉でも、かけられる言葉でもない。
チームメイトの誰かが怪我をして試合に出られなくなったとする。すると最近はその選手の背番号を帽子などに貼って「一緒に戦っている」感を出しているが、賛否両論ある中で、筆者の考えは否の部類に入る(賛の方はぜひコメント欄で持論を他の読者の皆さんに伝えてみてください)。もちろん怪我だけではなく、スランプなどの時もそうだ。誰かが出られなくなれば、当然別の誰かにチャンスが与えられる。それまで控えに甘んじていた選手は、そういうチャンスをずっと待ち焦がれていたはずだ。そんな時に怪我をした選手を気遣っているようでは、プロとしては失格だ。プロならば、怪我をした選手のポジションをそのまま奪うくらいの気迫を持ってプレーに挑んでもらいたい。
その点で最も筆者が物足りなかったのが上本達之捕手だった。今季上本捕手は、細川亨捕手に代わってスタメンマスクを被る機会が多かった。だが上本捕手のスタンスはあくまでも、二番手・三番手捕手という意識のもとでのスタメンマスクだった気がしてならない。伊東監督時代、細川捕手と野田浩輔捕手が凌ぎを削った頃とはまるで違っていた。筆者が細川捕手を強く応援するのは、野田捕手から力づくで正捕手の座と背番号27を勝ち取ったという実績と、そこから生まれた正捕手としての自覚と自信が漲っているからだ。
せっかく巡ってきたスタメンマスクのチャンスだったのだ。上本捕手には細川捕手を蹴落とすくらいの気迫を持ってもらいたかった。もちろんそれは数字の上だけの話ではない。チームに与える影響力、投手に与える安心感などだ。投手が打席に立たないパ・リーグにおいて、捕手の打力は最優先事項ではない。逆に投手が打席に立たない分、いかにして投手の能力を最大限集中して出させてあげられるかに捕手としての能力は問われている。このようなこともあり、筆者はシーズン中から上本捕手ではなく、細川捕手を起用してもらいたいと言い続けていたのだ。コメント欄を読むと、筆者が上本捕手を嫌っていると思われている読者の方もいらっしゃるようだが、それは誤りだ。
今のライオンズに最も足りないのは、チーム内での激しい競争だと思う。今季中島裕之選手が怪我をして数試合休んだ際、その代役を原拓也選手が努めたことがあった。その際原選手は「打撃でも守備でも中島さんには敵わない」という趣旨のコメントを残していた。もちろん先輩を立ててのコメントだったとは思うが、せめて「守備だけでも中島さんに負けないようにしたい!」というコメントが聞きたかった。負けん気の強い原選手だっただけに、余計そう感じたのを今なおよく覚えている。もちろん現状ではまだ難しいことだとは思うが、中島選手の怪我が癒えた際、中島選手が戻る隙のないチームになって欲しかった。そうすれば中島選手ももっと努力せざるを得なくなり、もっと素晴らしい選手になって戦列に復帰していたに違いない。だが実際には怪我が癒えると、ほとんど自然な感じで3番ショートに復帰していった。
正直筆者は今季、中島選手はもっともっと素晴らしい成績を残してくれると信じていた。だが結局は例年通り変わり映えのない成績で終わった。もちろん変わり映えしないと言っても数字そのものは素晴らしいものだ。だが中島選手ならば、もっと上の成績を目指して欲しかったし、もっと貪欲にトリプルスリーを目指して欲しかった。しかしそうならなかったのは、チームの現状が無関係ではないだろう。現在ライオンズには、中島選手の牙城を揺るがす存在の選手がいない。能力を差し引いたとしても、そのような気迫を持った選手がいないように思う。つまり中島選手のショートのポジションは、ある意味安泰してしまっているのだ。もしここにショートのポジションを虎視眈々と狙うライバルが現われれば、中島選手はもっと能力を伸ばせるはずだ。
「ピッチャーは相手チームのバッターと仲良くしておけ」とは良く言われることだ。これはバッターは、仲の良いピッチャーからはヒットを打ちにくいということを表している。また、逆の言葉もある。「バッターは相手ピッチャーと仲良くしておけ」。仲の良いピッチャーであれば、内角の厳しいコースには投げ込んでこない、ということを表しての言葉だ。どちらが当てはまるかは、選手個々の性格にもよるだろう。そしてこれらは、敵チームの選手だけではなく、チームメイトにも同じことが言える。友だちのように仲の良いチームメイトに対し、その彼からポジションを奪うなどという本気の宣戦布告はなかなかできるものではない。
さて、冒頭で「チームワークとは、チームワークを作ろうとしても生まれるものではない」と書いたわけだが、ここでその意味を改めて説明しておこうと思う。プロチームである限り、チーム内の選手同士は極端な話、犬猿の仲であっても問題ないと筆者は考える(それらの選手を上手く起用するのが監督の仕事だ)。グラウンドでは協力し合うが、ひとたびユニフォームを脱げばただの他人。そういう関係であってもチームワークは成り立つ。いや、プロである場合そうであるからこそチームワークが成り立つと言っても良い。チームワークとは、監督が目指す野球に対し、チーム全員がその方向を向いて、勝利を重ねることで初めて生み出されるものなのだ。チームワークありきでチームワークを生み出すことなど絶対にできない。
チームワークと自信はよく似ている言葉だと思う。結果を出せない選手に対し「自信を持て!」という指導者をよく見かける。しかしそうではない。結果が出ないから自信を持てないでいるのだ。チームワーク同様、自信ありきで自信をはぐくむことは不可能だ。何打席もヒットが出なければ、まずは1つのフォアボールが小さな自信になる。そして空振りしていたものがファールになるようになる、これも小さな自信だ。このような「小さな結果」が伴うことで、小さな自信は初めて本物の自信として培われるものなのだ。そしてチームワークも同様だ。監督の采配によりチームを勝利に導くことで、選手全員が同じ方向を向けるようになり、初めてチームワークが生まれてくる。
『星の王子様』を書いたサンテグジュペリはこう言った。「愛するということは、お互いに顔を見合うことではなくて、同じひとつの方向を見ることである」と。チームワークも同様であるとサンテグジュペリに賛同すると共に、今夜はこの記事を締めくくりたいと思う。
2010年10月23日 01:15
中島裕之選手の残留を求めた後藤オーナーの英断
10月19日、埼玉西武ライオンズの後藤高志(西武鉄道会長)オーナーは、中島裕之選手のポスティングによるメジャー移籍に関し「希望があれば話は聞くが、来年は(ライオンズで)日本一を目指して欲しい」と語った。この発言により事実上中島選手の今オフのポスティングの可能性は消滅し、来季もライオンズに残留することになった。中島選手がメジャー移籍に関してどのような思いを抱いているのかは分からない。だが西武球団としてのこの判断は、正しかったと筆者は確信している。後藤高志オーナーは、素晴らしい球団オーナーだと筆者は感じている。元々西武(コクド)がライオンズを買収した理由は、西武線沿線に大きなレジャー施設を設け、西武鉄道の利用者数を増やそうというものだった。また球団運営費の多くが親会社の広告費などでまかなわれていたことを考えると、西武グループの広告塔としての位置づけも大きかったのだろう。だが2004年に西武王国が崩壊し、堤オーナーが失脚すると2007年、後藤高志氏が正式にオーナー職に就いた。ライオンズが本格的に代わり始めたのは、まさにこの時からだった。
西武がライオンズを買収したのは1978年10月のことだった。蛇足ではあるが、筆者が生まれた4ヵ月後の出来事だ。この時ライオンズは博多から埼玉に移ることになるのだがその際、西武は福岡時代のあらゆるものを「西武ライオンズ」から引き剥がそうと躍起になった。それこそ西鉄ライオンズ時代の英雄でさえも遠ざけるほどだった。これには色々な理由が考えられるが、黒い霧事件と無縁だったということは考えにくい。以来、西鉄戦士たちはライオンズというチームからどんどん遠ざかっていってしまう。西鉄戦士たちのほとんどが西武ライオンズのコーチや監督にならなかったのもそのせいで、それらを豊田泰光氏が嘆いていたのも、非常に印象深い。
だが疎遠になった福岡時代のOBに再び手を差し伸べた人物がいた。それが後藤高志オーナーだ。後藤オーナーは就任翌2008年、早速ライオンズクラシックというイベントを催し、西鉄の野武士たちを西武ドームに勢揃いさせることに成功している。この時のエグゼクティヴプロデューサーは豊田泰光氏だったわけだが、2007年に逝去した故稲尾和久に向け「サイちゃん(稲尾和久のあだ名)にも見せたかった」と感慨深く語った姿が実に印象的だった。
恐らく後藤オーナーはライオンズを引き受けるに当たり、ライオンズの歴史を自ら追ったのだろう。そしてそこから、当時最強と謳われた西鉄ライオンズが急速に衰退した原因を学び、反面教師にしたのだと思う。西鉄が衰退した原因を簡単に述べると、1強くなった後そこに安寧してしまい、将来的な補強をやめてしまったこと。2西鉄母体の経営が危うくなり、球団運営費をまかなえなくなったこと。3黒い霧事件と呼ばれた八百長に、西鉄の選手数名が関係したこと。4球団運営費をまかなうため、主力をどんどん金銭トレードで放出してしまったこと。などが挙げられる。
1~4に関し、これらはすべて西鉄と西武に共通しうるものだと筆者は考える。まず1だが、森監督時代が最強を誇ってしまったことで将来的な補強が上手くいかず、西武は森監督勇退後の世代交代がスムーズに行かなかった。2は2004年に起ったインサイダー事件により、西武は上場廃止となった。西鉄の場合はエネルギー革命により、炭鉱周りでの収入を多く失い、さらには運輸省の指令で九州都市部のラッシュアワーの電車本数を増加させるも定期券利用客が多かった影響で投資に見合う利益が得られなかった。3に関しては西鉄や八百長事件、西武は裏金という問題を抱えた。4に関しては西鉄は豊田泰光選手ら多くの主力を金銭トレードで放出し、西武も松坂大輔投手をポスティングによりボストンに放出してしまった。これは移籍ではなく、放出と表現した方が正しいだろう。なぜなら、心身含めて松坂投手の後継者が未だ育っていないためだ。
世界経済の現状や、円高円安と言った事情も多分に含まれるだろうが、しかし後藤オーナーは4の悪しき慣習を繰り返すことをしなかった。筆者は報道を信じきり、中島選手は来季いないものだと諦めていた。だが後藤オーナーは金銭課題よりも、チームを強くすることを最優先に選んだ。銀行出身である後藤オーナーであればもっと金銭的にシビアになり、球団の運営経費を考えた上で中島選手を「販売」してもよかったと考えられる。だが後藤オーナーは決してそのようなことはしない。だからこそ筆者は後藤オーナーを、オーナー職就任以前より素晴らしいと感じているのだ。現在ライオンズが西武であるのも、オーナーが後藤高志氏であったからこそだ。
今季中島選手の年俸は推定2億5000万円とされている。今季のチームへの貢献度を考えれば、来季の年俸は3億前後が攻防ラインとなるだろう。中島選手1人だけでもチームとしては金銭的にかなりの負担になる。だが後藤オーナーはそれを承知の上で、中島選手のポスティングを認めず、チームへの残留を求めた。
プロ野球オーナーの理想の姿は、そのチームの最大のファンであることだ。つまり金は出すが口は出さないということに尽きる。どこかのチームのオーナーのようにタニマチ的感覚ではチームは決して強くならない。そして現場に口を挟むオーナーも見受けられるが、本来であれば現場はすべて監督に一任すべきだ。後藤オーナーのライオンズに対する接し方は、筆者は故三原脩はじめ、西鉄ライオンズ関連の書物から学んだとしか考えられない。故三原脩が著書にて何度も語っているプロ野球オーナーの理想像、後藤高志オーナーはまさにその姿なのだ。
これだけ素晴らしいオーナーが存在するライオンズだ。渡辺監督は来季、優勝することでオーナーの期待に応えなければならない。それでこそライオンズという歴史あるチームを率いる監督というものだ。そしてそのために伸ばすべき点、改善すべき点は山積みだ。渡辺監督には命賭けでライオンズというチームの歴史的再建を図ってもらいたい。ライオンズはホークス同様、プロ野球創生期から名を残す歴史ある球団なのだ。来季はその歴史に恥じぬ戦いを、宿敵ホークスと繰り広げてもらいたい。そして2008年以来3年振りの日本一を、オーナーに報告してもらいたい。
2010年10月22日 01:59

