中島裕之選手が遂げた、飛距離・確実性の進化
昨シーズンと、今年ここまでの中島裕之選手を見比べると、バッティングフォーム内におけるモーションをマイナーチェンジさせているように見える。ただ今年に関してはまだ公式戦に入ってはいないし、実際本当に変えたのか、ただ試しているだけなのかは憶測の域を出ない。だが筆者の印象では、変えに来ていることだけは確かだと思う。そして今回の記事は、変えたことを前提に書いていくことを予め断っておきたいと思う。具体的に何が変わったかと言うと、打席に立った時の前脚(中島選手の場合左脚)の上げ方だ。昨年までは基本的には前脚を上げる際、膝裏を90°以下の角度にして上げることがほとんどだった。だが今年は、いや、実際には中村選手の故障で4番に座った昨年の終盤戦からは、この膝裏の角度を90°以上にすることが多くなった。つまり前脚を上げた時の膝の曲がり具合が浅くなっているということだ。佐々木誠選手を覚えていれば、佐々木選手の前脚の上げ方と同じと言えば分かりやすいだろうか。
昨年に関しては膝裏の角度は90°以下のことがほとんどだったのだが、今年の中島選手は多くの場面でこの角度を90°以上にしている。90°以下、90°以上と言うとそれほど大差がないようにも感じるが、実際には20~30°の差が生じていると思う。この差でバッティングを崩すかもしれないというリスクを承知の上で、中島選手はどのような意図でモーションを変えたのだろうか?
結論から言えば、筆者はホームラン数を大幅に増やすためだと考えている。ホームランを増やすためではなく、大幅に増やすためだ。
昨年までの中島選手のバットの使い方を説明すると、バットの方を動かすことによってボールを迎えに行くというイメージだった。だが新しいモーションはと言うとその逆で、ボールを迎え入れているというイメージだ。この2つが身体に与える影響は、脊柱軸に現われる。
ボールを迎えに行ってしまうと脊柱軸は垂直、もしくはピッチャーに対し前傾になりやすい。だがボールを迎え入れてあげると、この軸をボールの軌道に対して直角に入れられるようになる。
G.G.佐藤選手のようなロングヒッターの場合は、軸足に重心を残したままバットを振るため自ずと脊柱軸は後傾となる。だが中島選手はあくまでも中距離バッターだ。基本的なスウィングをした際は、重心を軸足に残し切ってはいない。軸足股関節に乗せた上半身の体重を、ある程度はしっかり前脚股関節に移動させている。そしてこれに関しては今年もほとんど変わりはない。
軸足に重心を残せば、脊柱軸はボールの軌道に対して直角に入れられる。だが前脚に重心を移せばそれは非常に難しい。もしプロであってもフィジカルが弱い選手が今年の中島選手の真似をしても、ただ振り遅れて終わるだけだろう。だが振り遅れないでボールを弾き返せるのが中島選手であり、この変化こそが今年の中島選手を大きく進化させるポイントとなるはずだ。また、これを可能にするために春季キャンプでは連日の特守を行い下半身を強化させたのだろう。
物理学の面から考えていくと、プロのピッチャーが投げる140~150kmのストレートを打ち返した時、(ボールの軌道に対してではなく)地面に対して10°前後の角度でアッパースウィングをし、ジャストミートした時が最も飛距離が伸びる。そして合わせて野球に対しての運動原理を考えていくと、投げるにしても打つにしても、上腕軸と脊柱軸が直角に交わった時が最もスウィングスピードが速くなる。中島選手の進化は、この2つを同時に適えられるものだと筆者は考えている。
普通のスラッガーのように、重心を軸足に残したままのスウィングでは、バットはボールの軌道に対してアッパースウィングになってしまう。これでは大きなエネルギーをぶつけられる反面、打点が線ではなく点でしか捕えられなくなる。つまり空振りする可能性が高まるということだ。だが中島選手のように高い位置から重心を沈めて、バットの軌道をボールの軌道に対しレベル(水平)にすることができれば、正確性と飛距離アップの両方を手にすることが可能となる。そしてこの重心の沈みを可能にさせるのが、前脚を上げた際90°以上になる膝裏の角度なのだ。
もう少し簡略的に補足をすると、90°以下の角度で前脚を上げた場合、位置エネルギーのタメは上へと向かう。上へ向かうということは、エネルギーを使う際は下へ向かわせることで効率的に使うことができる。つまりダウンスウィングということだ。一方90°以上の角度で前脚を上げると、エネルギーは軸足側に水平に近い方向で貯えやすくなる。つまり重心移動を起こしながらも脊柱軸をボールの軌道に対して直角に入れやすくなるということだ。結論を言うと、バットスウィングはボールに対してはレベルになるが、地面に対してはアッパースウィングとなる。このアッパースウィングの角度が地面に対し10°前後であれば、中島選手が打つボールの飛距離はアップし、ホームラン数も10本前後増える結果となるだろう。
しかも一般的なスラッガーのように、地面・ボールの両方に対してのアッパースウィングではない。地面に対してはアッパースウィングだが、ボールに対してはレベルスウィングとなるため、打点は点ではなく線で捕えることができる。つまりタイミングが外れたとしても空振りをする可能性が非常に低くなるわけだ。
今年ここまでの中島選手を見る限りでは今季の中島選手は、中島裕之史上最強の中島裕之になるだろうと筆者は確信している。
恐らくオープン戦の数字を見て心配している中島ファンも多いかと思う。だが心配は無用だ。中島選手はこの新しく進化したバッティングを完成させるために、春季キャンプではバッティング練習の時間を減らして特守を行い、下半身を強化してきたのだ。そのために他の選手よりは若干遅めの打撃調整となったが、開幕を迎えれば状態は一気に上がっていくだろう。
中島選手がトリプルスリーを達成するのであれば、まさに今年は大きなチャンスだと思う。走塁面に関しても、ここ数年の中では今季は最も意識が高まっているのではないだろうか?今日の試合でも盗塁を決め、ワイルドピッチで楽々セーフという場面でも中島選手は二塁ベース前でスピードを落とさなかった。一気に二塁ベースを蹴り、ボールがバックネットまで転がっていることを確認するとそのまま三塁を陥れた。そして続く栗山選手の技ありのレフト前ヒットで生還を果たした。中島選手が今日のような隙のないプレーを見せている限り、今季のライオンズがBクラスに転落することはまずありえないだろう。
とにかく今季の中島選手は、筆者が言うまでもなくキャリアハイの活躍をしてくれるはずだ。その最初の一本目を見るべく、筆者は20日に行く西武ドームを心待ちしたいと思う。

2010年03月14日 21:24

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