岸孝之投手が更に飛躍するために必要な集中力
昨年13勝を挙げた岸孝之投手は、今季は確実に更なる飛躍を遂げるだろう。だがそのためにはまだまだ不足しているものがある。1球に対する集中力だ。もちろん集中力が欠けているという意味ではない。そうではなく、勝負どころでの更なる集中力があれば、さらに数字を向上させられるという意味だ。配球に関しては、昨年は細川捕手の故障もあり、ほとんどの登板機会において銀仁朗捕手とバッテリーを組んだ。その影響も大きかったとは思うが、完全に狙い球を絞られて痛打されるシーンが非常に目立った。バッター有利のカウントではそれが顕著に表れていた。
岸投手にとってのウィニングショットは、明らかにカーブだと言える。元々はスライダーで勝負するタイプのピッチャーだったのだが、今や岸投手のカーブは魔球と称されるほどのボールとなった。だが昨年は、このカーブの使い方がもったいなかった。具体的に言うと、狙われた時のカーブを確実に打たれていたのだ。
ウィニングショットというのは、その球が来ると分かっていても打者が打てないからこそ、ウィニングショットと言う。だが昨年の岸投手のカーブは、多くの場面で狙い打ちされていた。筆者が配球を見ている限りでは、これは銀仁朗捕手のリードが影響していたと思う。昨年の前半戦に関しては特にだ。
まず岸投手が打たれやすいカウントを挙げると初球、0-1、1-1、1-3と、1-1以外は完全にバッター有利のカウントで、バッター有利のカウントで唯一抑えられているのは0-2というカウントのみだった。これが何を意味するかと言うと、ストライクを簡単に取りに行き過ぎているということになる。
その中でも特にストライクが欲しい初球と、1-1というカウントでは被打率が高いだけではなく、被本塁打も多い。岸投手は昨年25本のホームランを浴びたが、そのうちの16本を初球、0-1、1-1というカウントで打たれている。早いカウントでこれだけ的が絞られているということは、裏を返せば配球に「キー」があるということが言える。つまり、Aという状況では高い確率でBを投げるというような「キー」だ。このキーが相手に読まれてしまうと、簡単に狙い球を絞られて痛打されてしまう。
岸投手がサインに首を振るシーンを、筆者はほとんど見たことがない。基本的にリードはキャッチャー任せのピッチャーのようだ。岸投手が持つ球種の割合を見ていくと、カーブは全投球の25%にも満たない。一方のストレートは約半分となる47%の割合を占めている。これは近年絶対的エースと呼ばれるピッチャーの中では、ずば抜けて多い割合だ。ライオンズで言えば涌井投手が36%、ファイターズのダルビッシュ投手が34%、楽天の田中投手が38%、岩隈投手が32%と、絶対的エースは軒並みストレートの割合が30%台となっている。
90年代であれば、ストレートの割合が47%であっても15勝以上挙げることは可能だったろう。だがいわゆる飛ぶボールが使用されている現在においては、ストレートの割合を50%近くにまでしてしまうと15勝という数字は非常に難しくなる。
また銀仁朗捕手がリードした昨年の岸投手の場合、初球からカーブを使うことはほとんどなかった。最後の最後にカーブで打ち取るための配球がほぼ100%だったと言える。ということはバッターからすると、80~90%以上の確率で初球はストレートかスライダーに絞ることができてしまうわけだ。
キャッチャーの中には、ウィニングショットは2ストライクまで使いたくないというタイプの捕手もいる。だが筆者はそういう固定観念は一切必要ないと考えている。岸投手が素晴らしいカーブを持っているということは、もう12球団の全打者が分かっていることだ。つまりもはやカーブを出し惜しみする理由は一切ない。ということは初球からもっとカーブを使うべきなのだ。
初球からもっとカーブを使うことができれば、バッターはストレート、スライダー、カーブの3種類を待たなければならず、その確率はどんなに高くても1/3でしかない。ストレートかスライダーを待っていれば良かった昨年とはまるで違う打席への入り方となるだろう。
初球からウィニングショットで入るメリットとしては、かなり高い確率で初球ストライクが取れることと、初球の1球だけで打者を打ち取れる可能性が上がるということだ。
冒頭で岸投手に更なる集中力を求めたが、それはウィニングショットに対してということになる。岸投手はバッター有利のカウントになると、たまにウィニングショットでストライクを取りに行こうとしてしまう。だがストライクを取りに行った球では、いくらウィニングショットと言えども威力は半減する。
ここで昨年13勝だった岸投手と、16勝を挙げた涌井投手の違いを明確にしてみよう。それは今書かせてもらったばかりのウィニングショットに対する集中力の違いだ。ウィニングショットでストライクを取りに行ってしまう岸投手に対し、涌井投手はしっかりとライン(ホームベースの左右)を投げ分けている。つまり、明らかにストライクを欲しがったボールは投げていないということだ。
この差はフォアボールの数にも現われていて、岸投手の53個に対し、涌井投手は76個だった。だが涌井投手の場合は防御率は2.30で、岸投手は3.40だった。これは毎試合岸投手の方が1点多く失点しているということを表す。
勝負を慌ててストライクを取りに行き、結果そのボールを痛打されてしまった岸投手。逆に勝負を焦らず、フォアボールを出してしまったとしてもヒットされにくいボールを投げ続けた涌井投手。これが2人のウィニングショットに対する集中力の違いだ。
岸投手はもはや慌てる必要のまったくない投手に成長している。今季はもっとマウンド上でドーンと構え、バッターを半ば見下ろす精神状態で投げることができれば、15勝を越す可能性は高いだろう。今季は恐らく細川捕手とバッテリーを組む機会が増えると思う。細川捕手はリーグで最も巧みなリードができる捕手だ。その細川捕手を信頼し、慌てて勝負に行くことがなくなれば、岸投手は間違いなく更なる飛躍を遂げることになるだろう。

2010年03月08日 21:49

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