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中村剛也選手が今季、50本塁打打てる理由



今季3年連続ホームラン王を狙う主砲中村剛也選手。筆者は、彼のホームラン王獲得には大きな価値があると考えている。埼玉西武ライオンズというチームは万年Bクラスというチームではない。ほとんど毎年優勝争いに加わっているチームだ。勝つことを求められているチームにおいて、2年連続でホームラン王を獲得したことには大きな価値がある。個人プレーを優先できる下位チームで獲得するホームラン王とは、その価値は大きく異なる。

ライオンズにはもう1人、G.G.佐藤選手というスラッガーがいる。だが中村選手とG.G.佐藤選手とではタイプがまったく異なる。技の中村に対し、力のG.G.という違いだ。この2つは大きく異なる。

まず技よりも力に頼ってホームランを打とうとするG.G.佐藤選手の場合、一度不調に陥るとそこからなかなか上がってくることができない。昨年に関しても不調時は、ドアスウィングから抜け出せない時期が長引いた。力で打つタイプのスラッガーは、不調に陥るともっと力を込めたがる。バットスウィングにおいて力を入れ過ぎてしまうと、バットの軌道は必ずぶれる。そうなってくると当たるものも当たらなくなり、ホームランどころかヒットも出なくなってしまう。反面好調時は信じられないくらいに打ち出す。昨年の8~9月のG.G.佐藤選手はまさにその状態で、ピッチャーに対して自然とタイミングが合っていた。そのおかげでドアスウィングも解消された。

一方技で打つタイプの中村選手の場合、ホームランを打つのに力を利用することはしないため、不調に陥っても短い期間で抜け出せる。本人の話によれば、7~8割程度の力で振り抜いた時、一番ホームランになりやすいと言う。また9~10割の力で振った時は、ほとんどホームランにはならないようだ。

本ブログでも何度か書いていることだが、ホームランとはパワーで打つものではない。筋骨隆々のメジャーリーガーなら話は別だが、日本人の体格ではホームランをパワーで打つのには限界がある。

ライオンズにはかつて清原和博選手、秋山幸二選手という日本人スラッガーがいたが、彼らもまた技でホームランを打つタイプの選手だった。バットのどこかにボールが当たってくれれば、あとは力でスタンドまで運ぶというタイプではない。しっかりとタイミングを合わせ、バットのスウィートスポットにボールを当てることで、あとは身体の回転でボールを飛ばしていく。清原・秋山両選手が、軽くバットを振ってホームランになったシーンを覚えているファンもきっと多いと思う。

そして話を中村選手に戻すと、恐らく今季の中村選手は確実にキャリアハイの成績を残してくると筆者は考えている。その理由は中村選手が現在取り組んでいる新打法にある。

プロ・アマ問わず、少なくとも9割以上の打者はバットを真っ直ぐスウィングさせている。中村選手もこれまでは真っ直ぐバットを出していくことがほとんどだった。だが今季は違う。非常にレベルの高い技術、バットをスピンさせる技を習得した。もっと細かく言うと、バットにトップスピンをかけてスウィングしているのだ。

バットにスピンがかかるとどうなるかと言うと、ジャストミートした打球に関してはそれほど大きな影響は出ない。だがそうじゃない打球に関しては、真っ直ぐバットを振った時と比べるとまったく質の違う打球が飛んでいくことになる。

ボールの下部を叩いてしまった場合、バットを真っ直ぐ振っていたらポップフライになる。だがバットにトップスピンがかかっていると、打球にはバックスピンがかけられることになる。ボールにバックスピンがかけられると、ボールには上に向かって行こうとするマグナス力が働き、その結果打球の飛距離が伸びるようになり、普通の外野フライが簡単にフェンスを越えて行くようになる。

逆にボールの上部を叩いてしまった場合、バットを真っ直ぐ振っていればそれはボテボテの内野ゴロになってしまう。だがバットにトップスピンがかけられていると、ボールにもトップスピンがかかってくる。トップスピンがかかった内野ゴロは、あっという間に野手の間を抜けて外野まで転がっていく。

このようにバットにトップスピンをかける技を、中村選手は今キャンプで習得した。これはその昔、868本のホームランを打った王貞治選手や、日本中の野球ファンを魅了した長嶋茂雄選手らが持っていた技だ。ひょっとしたら中村選手は今季、歴史に名を残す活躍を魅せてくれるかもしれない。

だがもし中村選手が今季55本塁打を打てたとしても、それは王選手の記録に並んだとは言えないだろう。なぜなら王選手が55本塁打した1964年と今とでは、ボールがまったく違うのだ。64年のボールは今のボールと比べると、まったく打球が伸びていかない。よく「飛ぶボール」という言葉が使われるが、飛ぶボールとは、ボールの弾力性を奪ったボールのことを言い、64年に使用されていたボールは、それとは真逆に弾力性の高いボールだった。

140kmのストレートを、160km以上のバットスウィングで打った場合、野球のボールは1/1000秒程度の間、約半分に潰されてしまう。通常このシーンを映像に収めることは不可能だ。なぜなら近年のハイスピードカメラであっても、1秒間に30フレームの撮影しかできないためだ。1/30秒というスピードでしか撮影できないカメラで、1/1000秒という瞬間を撮影することはできない。

だがもし機会があれば、王選手や長嶋選手が打ったホームラン映像をスロー再生で見ていただきたいと思う。この時代のカメラは当然現代のカメラよりも性能ははるかに劣る。しかしそれでも、ごくたまに王選手のバットに捕らえられたボールがかなり潰れて映されているのを確認することができる。つまり64年のボールにはそれほどの弾力性があり、バットとの衝突エネルギーを吸収してしまう性質があった。

このような理由から今季もし中村選手が今季55本塁打を打てたとしても、歴史に名は残るが王選手に並んだと表現することはできない。だからこそ筆者は中村選手には55本という数字ではなく、自分の背番号と同じだけのホームランを打てるバッターになってもらいたいと願っている。

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2010年02月25日 16:48