中島裕之選手、豪快さの影にある繊細な打撃
中島裕之という選手は、天性のバッターだと思う。もし他のバッターが簡単に中島選手の真似をしたとしても、中島選手のように打てるようになることはないだろう。それほど中島選手のバッティングには努力の量と同等に天性のものが感じられる。伊丹北高校時代の中島選手は、エースで主砲だった。だがアマ球界では無名の存在で、プロのスカウトたちのほとんどがマークしていなかった。1年生の頃からレギュラーを獲得してライトを守るようになった中島選手は、2年生になると1番に昇格し、3年生になるとエースとして1番を打っていた。つまりアマチュア時代の中島選手は、ショートなど守ったことはなかった。
元々投手として入団した中島選手は、打撃を活かすためすぐにショートにコンバートされた。それは近い将来、当時1軍のショートを守っていた松井稼頭央選手のメジャー移籍が濃厚とされていたためだった。そしてこのコンバートは中島選手にとって吉と出た。入団1~2年目はファームでみっちりと守備・打撃練習に明け暮れ、3年目からは1軍にも長期帯同するようになり、松井稼頭央選手の抜けた4年目にはついにレギュラーを獲得した。ショートとして7番を打ち、全試合フルイニング出場を果たした。
なぜ筆者が中島選手のバッティングに天性のものを感じるかと言うと、その理由は目線の動きにある。中島選手は打席では比較的よく動くタイプだ。まず足を豪快に上げている時点で、身体にはブレが生じ、当然それは目線のブレにも繋がっていく。しかし中島選手の場合、このブレを上手く利用しているように筆者は感じるのだ。
ブレるということはつまり、身体の動きがルーズになるということ。ルーズになればブレるというデメリットとは逆に、動かしやすいという相対するメリットも生まれる。中島選手はこのメリットを上手く利用している。
ルーズになった身体・目線を上手く動かすことで、柔軟にその目線を投球の軌道上に乗せることができている。しかしアマチュア野球ではこの動きは良しとはされない。目線と身体をブラさずに打つことを徹底して教えられる。もし中島選手が名門報徳学園に合格していたら、恐らくまったく違ったタイプのバッターにされていただろう。そう考えると報徳学園に落ち、伊丹北で伸び伸びとプレーできたことは中島選手にとっては大きな財産になったと思う。
中島選手のバッティングを一見すると、非常に豪快だ。「ぶった斬り打法」とも呼ばれる上段に構えるバットに、大きく上げていく前脚。このフォームそのものが豪快だ。だが中島選手のバッティングメカニズムを1つずつ分析して行くと、バッティングモーションに関しては豪快さは少なく、むしろ繊細さ、巧さばかりが感じられる。上述した目線に関してもその1つだ。
ただ筆者は1点だけもったいないなぁと感じる個所がある。それは、最初からバットを上段に構えてしまっている点だ。もちろんこれが悪いというわけではない。ここにバットを構えることで、目線だけではなく、バットスウィングの軌道も投球の軌道上に乗せやすくなる。この打ち方なら打率が高いことに不思議はない。だがホームラン数に関しては、この打ち方では今後劇的に増えることは考えにくい。
打率を1分下げてでもホームランを10本増やす、と考えた時、始動時に構えた時のバットは身体と正対する位置に構えると効果はすぐに現われるだろう。つまりタフィ・ローズ選手のように、身体と正対する位置で肩甲棘と上腕骨を水平にし(0ポジション)、バットをキャッチャー側にやや傾けるのだ。これを行うと何が起こるかと言うと、反力が生まれる。すべてのスポーツに限らず、すべての動物の動きは反力があってこそ成り立つ。もし地面という反力がなければ、いくら足を蹴っても前に進むことはない。
バッティングにおいて反力を利用すると、その分バットスウィングに込められるエネルギーが増幅される。つまりより強い力をボールにぶつけることができる。この反力を最も分かりやすい言葉で表したのが、テイクバックという言葉だ。テイクバックこそが反力を、もっと分かりやすく言えば反動を巧く利用したバッティングモーションとなる。
中島選手の場合は最初からバットを上段に構えてしまっているため、上半身のテイクバックが極端に少ない。ただその分バットコントロールの質を高めているために打率は非常に高い。だがボールに伝えられるエネルギーは多くないため、なかなかホームラン数は増えていかない。
中島選手は3割3分・20本塁打打つ能力があることは2008年にすでに証明した。すると今後求められるのは3割2部・30本塁打であり、トリプルスリーを目指す中島選手自身、この数字を具体的に考えているはずだ。
今季中島選手がバットを立て気味に構えるシーンがあれば、それは確実に長打を狙っている場面となるだろう。昨季も中村選手が故障し、4番に座った際にはバットを立てて構え、明らかに長打を狙いに行っていた。
バッティングそのものはまだ変える必要はないと思う。ただボールを狙いに行く動作の始動時において、バットを構える位置だけを動かすことができれば、打球の飛距離は10m単位で伸びる可能性を秘めている。そうすれば、昨季まではウォーニングゾーンで失速していた打球も、確実にスタンドインするようになるだろう。
とにかく中島選手はまだまだ進化の過程にいる。WBCやオリンピックもなく、落ち着いてシーズンに挑める今季は、恐らく中島裕之史上最強の中島裕之を見ることができるはずだ。12球団最高のアーチストである中村選手に、日本代表クラスのスラッガーである中島選手が居並ぶライオンズの打線は、今季は今まで以上に他球団の脅威となるだろう。西武ファンとしてではなく、野球ファンとして冷静に見たとしても、今季ライオンズが優勝争いに絡めない可能性はないと思う。中島選手の更なる進化によって、それを確信的に考えることができる。

2010年02月16日 14:50

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