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小岩ジェッツ

涌井秀章投手のピッチングモーション~悪い点

プロ入り5シーズン目を終えたライオンズの若きエース涌井秀章投手。筆者は2004年の甲子園からずっと彼のピッチングを見続けているが、ここまでは期待通りのピッチャーに成長してくれている。エースとしての実働・数字には何の文句もない。高卒5年間で56勝という数字は本当に素晴らしい。今ライオンズにこのピッチャーがいなかったらと考えると、恐ろしくなるほどだ。

球界の一流エースの多くが、涌井投手のピッチングフォームのバランスの良さを称えている。この点に関しては、涌井投手は球界ナンバー1の評価を得ている。具体的には、どの球種を投げる時でもほとんどフォームに変化が現れない。1軍半のピッチャーの場合は、腕のスウィングがストレートを投げる時は速く、カーブやチェンジアップを投げる時は遅くなることがある。だが涌井投手は、どの球種もほとんど同じフォームから投げている。

バッターとしては、これほど打ちにくいピッチャーはいないだろう。球種が豊富な上、どの球種も同じフォームで投げてくるし、球速も140km台中盤という速さだ。筆者の正直な意見を言えば、来年メジャーに行ったとしても十分通用するだろう。だが筆者はもう1つ思うことがある。それは、子どもたちには涌井投手のフォームを真似して欲しくないということだ。

野球というスポーツをテクニカルな部分だけではなく、フィジカル面でも勉強した身だからこそ分かることなのだが、涌井投手のピッチングフォームは決して理想的ではない。まだ身体の出来上がっていない中高生が真似をすれば、取り返しの付かない怪我に繋がる恐れがある。

ではなぜ涌井投手は今まで怪我をしていないのか?それは並外れた走り込みの量が上半身の負担を軽減させているためだ。涌井投手の下半身の強さは尋常ではない。プロ野球のピッチャーであっても、涌井投手ほど下半身が安定しているピッチャーはいない。そしてその安定感は、年々増していっている。涌井投手の場合、この下半身があるからこそこれまで怪我を回避することが出来ている。

涌井投手のピッチングフォームの良い点は多々ある。だが今回は悪い点について書いていこうと思う。まず腕のスウィングだ。涌井投手の場合は腕を真っ直ぐ振り下ろしている。つまりテイクバック後、スウィング動作に入った後はリリースするまで、ボールを持った指先がずっとキャッチャー方向を向いている。

肩と股関節は「ボール&ソケット」と呼ばれる関節で、この左右4つの関節のみが回旋運動を取ることができる。つまり肩と股関節に関しては、回旋運動をすることが生理学的にはもっとも自然な動きなのだ。だが腕を真っ直ぐ振り下ろしてしまうと、この回旋運動が発生しない。回旋運動を取ったスパイラルリリースでボールを投げると、肩~腕にある約40種類の筋肉に平等に負荷が行き渡る。だが真っ直ぐ振り下ろしてしまうと、この負荷が一部の筋肉に集中してしまうのだ。主には肩後方、三角筋などを痛めやすい。また二次弊害として腰と背中を痛める可能性も非常に高い。

だからこそ筆者は、子どもたちには涌井投手の真似をしてもらいたくないと思っている。だが、涌井投手の練習量、練習姿勢は十分に見習ってもらいたい。

2つ目の悪い点は身体にスピンがないという点だ。高校時代の涌井投手には、「ここぞ!」という時のストレートには身体のスピンが出現していた。だがプロ入りから5年経った2009年は、筆者は涌井投手の身体がスピンした姿を一度も目にすることはなかった。ちなみに今シーズンの涌井投手のピッチングは西武ドーム、テレビ、録画ビデオなどで全球見ている。

そもそもこのスピンは何に必要かと言うと、球速をアップさせるために必要なのだ。球速とは、腕のスウィングを速くすればアップするものではない。脊柱を軸としたボディースピンの速度をアップさせることで、球速はアップするのだ。だが涌井投手の場合はスピンがないのに今シーズン、球速がアップした。これはなぜなのか?その答えは簡単である。筋力でボールを投げているのだ。

高校時代と2009年の涌井投手の写真を見比べられる機会があればぜひ見て欲しいのだが、体格が大きく変わっている。プロに入ったのだから当然と言えば当然なのだが、だがこれこそが筆者が最も心配している点なのだ。今シーズンの涌井投手は140km台中盤~後半のストレートを投げていた。だがこの球速は、高校時代にも投げていたのだ。

涌井投手のプロ1年目は1勝6敗という成績だった。勝ちを付けてあげてもいい内容の敗戦もあったのだが、しかしそれを差し引いても決して良い内容とは言えなかった。このあと涌井投手は相当考えたのだろう。プロ野球で生き残るためのすべについて。そしてその答えがコントロールと、遅い球離れだった。

コントロールに関しては高校時代から良かったのだが、プロに入って下半身を作り直したことで益々良くなった。だが問題はリリースの遅れだ。涌井投手のこの部分を評価する解説者は多い。そういう筆者自身も、球離れの遅さ自体は素晴らしいと思っている。だがこの球離れの遅さが、涌井投手にとって諸刃の剣となってしまったのだ。

プロに入って球離れを遅くさせたため、球速が落ちてしまったのだ。だが2009年の涌井投手はその球速に強いこだわりを見せた。そして重視したのが筋力トレーニングだった。筋力トレーニングはもちろん大切だ。だがピッチャーにとってはやり方を間違えてしまうと、これが命取りになることが少なくない。

ここで1つ冷静に考えてみて欲しい。もしスピードボールを筋力で投げるのだとしたら、球界1細身の岸投手のあのスピードはどこから生まれているのか?そう、スピードボールは筋力で投げるものではないのだ。筋力がなくても、球速をアップさせることは十分に可能なのだ。だが涌井投手の場合は球離れのタイミングを遅らせたことで、それが出来なくなってしまった。だからスピードアップに筋力を頼るしかなかったのだ。

だが筋力アップしても劇的にスピードが増すことはないだろう。ロジャー・クレメンスやランディ・ジョンソンのように桁外れな体格をしていれば別だが、しかし一般的な日本人選手には無理な話だ。

そもそも筋肉量を増やして身体を大きくしてしまうと、慣性モーメント(回転のしづらさ)が大きくなり、身体のスピンはどんどん鈍くなってしまう。これは身体を大きくした松坂大輔投手にそのまま当てはめることが出来る。スピードをアップさせるには、脊柱を軸とした身体のスピンと、それに直角に交わる腕のスバイラルが必要なのだ。だが涌井投手のフォームは2つともない。そして腕軸も、脊柱に対し直角に交わっていない。

今はまだ涌井投手は若手の1人だ。しかし25歳を過ぎ、野球選手のピークと言われる27歳も過ぎると筋肉が徐々に柔軟性を失っていく。そうなった時、今の涌井投手のピッチングフォームは怪我をする可能性が非常に高いのだ。さっきも言った通り肩後方、背中、腰を痛めやすい。

フォームについてさらに詳しいことを言うと、軸足となる右足にエッジが利いていないため、体重移動がスムーズに行われていない。そしてそれに付随して骨盤がドア開きモーションになっているため、これも慣性モーメントが大きくなり球速アップの邪魔をしている。

松坂大輔投手にも言えることなのだが、プロ入り以降年々数字を向上させてはいる。だがピッチングモーションに関しては、2人とも年々無理をしていっているように見える。ちなみに松坂投手はプロ4年目で肘を故障し、長期離脱をしている。松坂投手の場合は股関節が少し固いため、涌井投手よりも早く無理が来たと言えるだろう。身体のスピンは股関節を支点にして行うため、股関節が固いと身体のスピンで腕を振ることが出来ず、筋力を使って腕を振らなければならない。つまり股関節が固いと、肩・腕への負担はさらに増してしまうのだ。ちなみに股関節の使い方が上手い投手と言えばダルビッシュ投手と、菊池雄星投手だ。

涌井投手にはライオンズのエースとしてあと15年は投げ続けてもらいたい。そのためにはまず怪我を回避しなくてはならない。「無事これ名馬」と言うが、怪我をせずに投げ続けることがエースの第一条件だ。そのためにも将来的に、筆者が挙げたポイントを少しずつでも良いので修正していってもらえたらと思う。

いくらプロのピッチャーと言えど、ピッチングフォームをすぐに修正することはできない。もし今筆者が挙げた点をすべて修正するとしたら、涌井投手が毎日取り組んだとしても試合で通用するまでに半年は掛かるだろう。だから1つずつで良い。怪我を防ぐためにも、もう少し身体に無理のないモーションをトレーナーと一緒に学び、今後取り入れていってもらいたい。

正しいモーションでボールを投げれば、ピッチャーの肩は決して消耗品ではないのだ。そして肩を温めるためのキャッチボールも少なくて済む。小野寺力投手はブルペンで肩を作るのに45球を要する。だが正しいモーションを取ることができれば、鹿取義隆投手のように2~3球で肩を作ることも可能になる。また故障後の豊田清投手のようにやはり5球で肩を作れるようになる。小野寺投手の肩はまさに消耗品と言えるが、鹿取投手や故障後の豊田投手の肩は、決して消耗品ではないのだ。45球と5球の差を見るだけでも明らかだ。

涌井投手は今後、親友ダルビッシュ投手と共に日本を代表する2枚エースへと成長していくだろう。筆者はそうなった時に涌井投手が故障をするのではないかと心配をしている。筋肉が柔らかい今のうちは問題はなくても、恐いのは25~27歳を過ぎた後だ。その歳になって辛い思いをする前に、涌井投手にはぜひ今オフからでもモーションに関して勉強をし直してもらいたい。涌井投手がもっと生理学的にピッチングフォームを考えられるようになれば、今それをしっかりやっているダルビッシュ投手に並ぶ存在感をハッキリ示すことができるだろう。だが現時点では、ピッチャーとしての総合力はまだダルビッシュ投手の方が上だ。

涌井投手がダルビッシュ投手を上回った時、ライオンズはぶっちぎりの強さを見せてくれるに違いない。絶対的エースの存在は、チームに想像以上の大きな影響を与える。涌井投手には今後、「今日は涌井が先発だから勝てないなぁ」と相手に思わせられるほどのピッチャーになってもらいたいと思う。

今回は涌井投手のピッチングモーションの悪い点だけにフォーカスを当てて書きましたが、良い点も多々あります。それについてはまた今度ということで。

涌井秀章投手のピッチングモーション~良い点について

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2009年11月07日 03:16 




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